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村田製作所、大阪府立大学LAC-SYS研究所が細菌検査を効率化する「ポータブル光濃縮システム」を共同開発~産学連携製品としてCEATEC2019に出展~

2019/10/11

株式会社村田製作所
公立大学法人大阪 大阪府立大学

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株式会社村田製作所(本社:京都府長岡京市、代表取締役会長兼社長:村田 恒夫、以下「村田製作所」)と大阪府立大学(大阪府堺市、学長:辰巳砂 昌弘)LAC-SYS研究所(所長:飯田 琢也、副所長:床波 志保、以下「LAC-SYS研究所」)はLAC-SYS研究所の「光濃縮技術」をスマートフォンサイズ(長さ10㎝×幅6㎝×厚み2cm)の筐体に実装した「ポータブル光濃縮システム」(以下、本製品)を共同開発しました。

本製品はCEATEC2019(メディアコンベンションは2019年10月14日、会期:10月15日~18日)の村田製作所ブース(幕張メッセ HALL7 H021)に出展します。

細菌検査を行う手法として一般的な培養法は十分な検体の取得に1日から数日かかり、食品工場など食品を扱う場でO157などの有害細菌の有無を確認する際や病院・分析センターで疫病確認のため細菌検査を行う場合などで、多くの時間がかかることが課題となっています。また、従来型の光濃縮システムで検査を行うには大型スーツケースサイズの機器(長さ87㎝×幅67㎝×厚み72㎝)が必要であったため、持ち運びに不向きでした。本製品は村田製作所の小型化技術、LAC-SYS研究所が有する光濃縮技術を活用し、細菌検査の測定時間を大幅に短縮し、容易に持ち運び可能なサイズを実現しました。
 

本製品の構成図

 

 

製品特長:

長さ10㎝×幅6㎝×厚み2cmの小型筐体を実現
LAC-SYS研究所の光濃縮技術により物理的にサンプルを濃縮し生化学反応を加速・制御
村田製作所の小型化技術を活用した独自の光学設計でポータブルな検査システムを実現
食品工場や病院での細菌検査(食中毒菌、院内感染菌)や環境計測(河川、海洋のマイクロプラスチックや大気中のPM2.5)などの時間を大幅な短縮、測定における高感度化*1を実現
光濃縮検査により培養検査と比較して、検査時間を300分の1へ短縮*2
*1 1つの素子を用いて300秒間のレーザー照射を行うことで10万個以上の細菌や微粒子を捕捉、素子のアレイ化も可能
*2 24時間かかる検査と比較した場合、本システムでは5分間で測定が完了

衛生検査の効率化はグローバルで人とモノの動きが活発化する現代において重要な社会課題となっています。本製品により、現在病院や分析センターにおいて数週間の分析期間を要している細菌検査などを迅速化するだけでなく、携帯性を活かして空港や駅などの公共エリアにおける細菌・ウイルスなどのバイオテロの未然防止など、さまざまなシーンで活用できると考えています。両者は今後も産学の知見を活用し、利便性に優れた製品提供に向け、共同で課題解決に向けて取り組んでいきます。

 



開発背景および技術情報の補足

21 世紀の人口増加に伴う食糧問題は人類の持続的社会のための重要課題であり、近年の輸出入の活発化に伴う食の安全保障においても細菌検査の技術は必要不可欠です。また、医療現場においては、院内感染症の因子である細菌を速やかに特定する必要もあり、迅速かつ高感度な細菌検出法の開発が求められています。
従来の細菌検出は培養法を基本としていますが、結果が得られるまでに1〜10 日程度を必要とするだけでなく、培地の調製や滅菌処理などの操作が煩雑な場合もあり熟練した知識・技術が要求されます。これらの問題を解決するため、近年では酵素免疫測定法(ELISA法)*3や生命体のエネルギー源であるアデノシン三燐酸(ATP)を検出することで間接的に細菌の有無を検出する方法の開発も行われています。しかし、測定部位に細菌を誘導し、コンパクトな装置で迅速かつ高感度で検出する手段はありませんでした。2018年に光ピンセット技術にノーベル物理学賞が授与されましたが、作用範囲が数マイクロメートル程度のレーザースポット径と同程度であるため、少数の細胞を対象とした精密計測には向いていますが、多数の細胞を迅速に捕捉することは困難でした。
本技術では村田製作所とLAC-SYS研究所が産学の知見を統合することで、光学系と基板の構造を改良し、光発熱効果による対流とマイクロバブルを高効率に液体サンプル内に発生させ、数ミリメートルに及ぶ作用範囲を実現し、さらに大型の従来機と比べて約1.8倍の捕捉数(濃縮率)のナノ・マイクロ物質を誘導・濃縮・高密度集積することに成功しました(図1)。

 

 

図1 光濃縮の基本メカニズムの概念図

 

 

*3 Enzyme-Linked Immuno-Sorbent Assayの略称で特異性の高い抗原抗体反応を利用し、主に液体試料中に含まれる抗体あるいは抗原の濃度を検出・定量する方法の1つ。酵素反応に基づく発色・発光をシグナルに用いており、多くの前処理が必要で、専門的な知識と技術が求められることが多い


研究者のコメント / LAC-SYS研究所 飯田 琢也 所長(理学系研究科 准教授)

今回、LAC-SYS研究所が有する生化学反応の光誘導加速システムの技術の基盤となる「光濃縮システム」の小型化に関する技術開発に村田製作所と共同で取り組み、ポータブル化に成功しました。本製品はスマートフォンと同程度の大きさで持ち運びやすく、飲食業界や家庭での食品安全性検査など、オンサイトでの迅速・高感度な衛生検査の実現にブレークスルーをもたらすものと考えています。将来的には、細菌や微粒子以外のさまざまな生体サンプル(遺伝子、アレルギー物質、さまざまな疾病の原因となるタンパク質、ウイルス、発がん性物質など)の計測で患者さんに負担を与えない低侵襲な医療検査へと展開することも期待しています。

 

村田製作所について

村田製作所はセラミックスをベースとした電子部品の開発・生産・販売を行っている世界的な総合電子部品メーカーです。独自に開発、蓄積している材料開発、プロセス開発、商品設計、生産技術、それらをサポートするソフトウェアや分析・評価などの技術基盤で独創的な製品を創出し、エレクトロニクス社会の発展に貢献していきます。


大阪府立大学LAC-SYS研究所について

「光の力」や「光の熱」が引き起こす流れを巧みに利用した光濃縮により、多種多様な生化学反応を遠隔的かつ非破壊に計測・制御する「光誘導加速システム(Light-induced Acceleration System; LAC-SYS)」の研究開発を世界に先駆けて推進し、食品検査・臨床検査・医薬品開発・環境技術・エネルギー変換などさまざまな社会的課題の解決に貢献することを目的とした異分野融合型の研究所です。
大阪府立大学キープロジェクト*4の一つである「LAC-SYSプロジェクト―次世代バイオフォトニクスが拓く未来―」の枠組みで、戦略的な調査・研究課題を実施するために学長が運営する「2号研究所」の1つとして2017年5月に設立されました。(URL: http://www.p.s.osakafu-u.ac.jp/~t-iida/LAC-SYS/index.html)

*4 先端的かつ世界的にもトップクラスであり、今後、大阪府立大学の顔となり得るプロジェクトとして、学長が指定し、プロジェクトの推進に必要な支援を行っている研究のこと

 


LAC-SYS研究所と村田製作所の共同研究について

LAC-SYS研究所と村田製作所は2017年10月から小型の光誘導加速システムの開発に関する共同研究を開始し、実用化に向けた研究開発を精力的に推進しています。その成果の一部に関して、これまでにも学会発表、特許出願などを行ってきています。
―第80回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集 18p-E204-15「小型レーザー光源を用いた光誘起集合の解析」〇末廣 泰地1,2,3、櫻井 健司2,3、山崎 力4、石川 弘樹4、田村 守1,3、床波 志保2,3、飯田 琢也1,3 (1.大阪府大院理、2.大阪府大院工、3.大阪府大LAC-SYS研究所、4.株式会社村田製作所) (2019年9月18日~21日@北海道大学 札幌キャンパス)
―特許出願中(2件)

 

研究助成資金など

本研究は主にJST未来社会創造事業 探索加速型 「共通基盤」領域の課題「低侵襲ハイスループット光濃縮システムの開発(研究開発代表者:飯田琢也、共同研究者:床波志保、中瀬生彦)」(JPMJMI18GA) の下で遂行され、日本学術振興会 科研費基盤研究(A)(JP17H00856)、科研費基盤研究(B)(JP18H03522)、新学術領域(提案型)「光圧によるナノ物質操作と秩序の創生」(領域代表:石原 一)(JP16H06507)、公益財団法人村田学術振興財団、大阪府立大学キープロジェクト、その他の支援を受けて完成しました。

村田学術振興財団は研究助成 (自然科学)として2018年度に「分子認識能を備えたマイクロ細孔によるハイスピード外場誘導バイオセンサ」の研究課題へ助成しています。
https://www.murata.com/ja-jp/group/zaidan/recipient/research/2018

 

「ポータブル光濃縮システム」共創パートナー募集中


村田製作所では、「ポータブル光濃縮システム」の実用化に向け、開発にご協力いただく共創パートナーを募集しています。

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ムラタについて

村田製作所はセラミックスをベースとした電子部品の開発・生産・販売を行っている世界的な総合電子部品メーカーです。独自に開発、蓄積している材料開発、プロセス開発、商品設計、生産技術、それらをサポートするソフトウェアや分析・評価などの技術基盤で独創的な製品を創出し、エレクトロニクス社会の発展に貢献していきます。

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