特集 タイミングデバイスの可能性

音楽のテンポに合わせて、動き出し、踊り出すムラタのチアリーダーたち─。
同じテンポで動かなければチームワークは成り立ちません。電子機器の中で、そのテンポを刻んでいるのが「タイミングデバイス」です。
チアリーディング部のメンバーがぶつかりそうでぶつからないのは、それぞれがタイミングデバイスをもち、みんなの信号が同期しているから。
タイミングデバイスは、あらゆるものが電子化されていく中で、重要な働きをしている部品の一つです。

タイミングデバイスって何なんだろう?

タイミングデバイスとは

世の中にあるさまざまな電子機器、その中では必ずいくつもの電子回路が働いています。
それらが正常に機能するには、一定間隔で安定した周期の信号「クロック信号」が必要です。 電子回路は、このクロック信号を基準に作動しています。クロック信号は、それぞれの機能を果たすためのタイミング信号であり、周辺のコントローラーとの連携 (同期) をとるための信号でもあります。この基準となる一定周期のクロック信号を発生させているのが「タイミングデバイス」です。電子機器が機能するために、基準となる信号を出している重要な部品であり、必ず必要な部品です。そのコアとなる素材には、主にセラミックスと水晶が用いられています。

なぜぶつからない?

チアリーディング部のメンバーは、さまざまなフォーメーションで、それぞれが個別の動きをしてもぶつかりません。それは、会場に置かれた2つの発信機から出された超音波と赤外線を、メンバーの頭の中の5つの超音波マイクと4つの赤外線センサが受信し、それぞれの位置をリアルタイムで、正確に把握しているからです。こうした電子機器に、正しい時間とスピードで情報を送るための信号や連続した同期信号を提供しているのが、タイミングデバイス。ぶつからない一つの理由です。

タイミングデバイスの原理と種類

物質に力を加えると表面に電荷が発生する「圧電効果」と、物質に電気を加えるとひずむ「逆圧電効果」で、水晶やセラミックスは安定した周波数を生み出します。

セラロック®(セラミック発振子)

圧電セラミックスの機械的共振を利用した発振素子。小型化と量産化に優れ、自動車電装品、民生機器や家電製品など、幅広い用途に応用されています。

水晶デバイス

その用途や種類、機能によって分類されています。

[水晶振動子] 結晶として安定した水晶を利用した一定周波数を生み出すための素子

[水晶発振器] 振動子を発振させるための回路がパッケージ化されたモジュール

  • SPXO (Simple Packaged Xtal (Crystal) Oscillator)
    水晶振動子と発振回路を一体化したもっとも基本的な発振器。
  • TCXO (Temperature Compensated Xtal (Crystal) Oscillator)
    水晶振動子のもつ温度特性と正反対の回路特性を組み合わせ、高い安定度の信号を出す温度補償型の発振器。小型化が進み携帯電話やスマートフォンに多用されています。
  • VCXO (Voltage Controlled Xtal (Crystal) Oscillator)
    発振器の出力周波数を外部から加える電圧でコントロールできるもの。通信の中継装置など、産業機器で使われています。
  • OCXO (Oven Controlled Xtal (Crystal) Oscillator)
    最も高精度で、安定している発振器。高温域で温度傾斜がゼロになる水晶振動子を用い、温度を一定に保つことで安定化を図ります。携帯電話の基地局や放送機器、測定器などに使われます。

二種類の発振素材

多結晶 (セラミックス)

セラミックスは一般的に細かい結晶の集まりで、一つひとつの結晶は正の電荷をもつ原子と負の電荷をもつ原子から構成されています。高い直流電圧をかけると、分極の向きが一方向にそろい、多結晶体である圧電セラミックスが生まれます。

単結晶 (水晶)

水晶は圧電性を有する単結晶です。結晶欠陥や不純物が少ないため周波数温度特性に優れています。人工水晶では、結晶欠陥や不純物をできるだけ除去することで、水晶に近い特性を得られる品質を追求しています。

私たちの日常とタイミングデバイス

暮らしの中に息づくタイミングデバイスの技術と可能性

ネットワークの一端を担う最近の電子機器は、お互いの信号を同期させなければ通信ができません。デジタル回路のクロック信号源として使われるタイミングデバイスは、その基本となる信号を生み出すために必要な部品として、私たちの生活のさまざまなシーンで息づいています。デジタル技術の発展と共に進化してきたタイミングデバイス。長年にわたるその技術の結集により、新しい活躍の場が広がっています。

私たちの日常とタイミングデバイス

暮らしのさまざまなシーンで活躍するタイミングデバイス、その応用範囲は広がっています。

私たちの日常とタイミングデバイス

タイミングデバイスと水晶の技術

人工水晶の育成

タイミングデバイスのコアとなるのが水晶。ムラタでは高品質の人工水晶を生産しています。

振動モード

電子回路によって目的の周波数はさまざま。材質・分極処理・形状・寸法などの組み合わせにより、マッチングさせます。

パッケージ

ムラタが培ってきた独自のパッケージ技術。高い生産性と小型化に優れ、水晶への応用で革新的な製品を生みました。

信頼性

セラミック発振子で培った独自のパッケージ技術を応用して、革新的なスクリーニング技術を水晶へ導入しました。

シミュレーション

さまざまなシーンで活躍するだけに、事前のシミュレーションも重要。独自ソフトにより、精度の高い結果を得ています。

ムラタ・タイミングデバイスの歴史

ムラタのタイミングデバイスの歴史は、1950年代、「圧電セラミックス」を応用した超音波振動子の開発までさかのぼります。1961年には独創的な技術でAMラジオ用セラミックフィルタ (セラフィル®)を開発。その後、セラミックスによる発振子「セラロック®」を製品化し、商標を取得します。こうして、タイミングデバイスの根幹ができあがりました。そして2009年、ムラタは水晶デバイスの専門企業である東京電波と資本業務提携。水晶による振動子の開発に着手します。セラロック® で培ったパッケージ技術、生産システムを応用し、セラミックスから水晶へとブレークスルー。タイミングデバイスの二つのコアを融合させ、樹脂封止タイプの「HCR®」シリーズを完成させ、水晶振動子業界に大きな波紋を投げかけました。また、高精度な気密封止タイプも拡充することで新たなマーケットを形成しています。

ムラタ・タイミングデバイスの歴史年表はこちら (PDF: 183KB)