音でつながる、人とつながる - モバイルメディアを使った、あたらしい音遊びの提案 (2022年採択) 古川 聖 氏

古川 聖 氏 プロフィール

  • 1979年4月~1984年9月 ベルリン芸術大学 作曲科
  • 1984年10月~1987年3月 ハンブルク音楽演劇大学 作曲・音楽理論科修了(修士)
  • 2000年~ 東京芸術大学 先端芸術表現科教授
    共創拠点アート開発ユニットリーダー兼任。専門は作曲、実験音楽、メディアアート。
    古川研究室を主催し理化学研究所を始め国内外の機関、科学者と共同研究を行っている。

古川氏の取り組みは、音楽とテクノロジーを融合させ、社会との新たな繋がりを創出するものです。
古川氏の研究とその社会的意義について伺いました。

今回の研究テーマについて教えてください。

今回助成金をいただいて進めたプロジェクトは、「空間楽器」と呼ばれるものです。これはスマートフォンを活用して、複数のデバイス端末から同時に音異なる音声を発信し、参加者全員で一つの音楽を演奏し楽しむという試みです。異なる様々なタイプのスマホの音声同期は大変難しく、最近になってようやく音楽が演奏できる正確な同期が可能になりました。この技術を用いて、大規模なコンサートや国際会議など多人数が参加する場での音楽体験を実現しています。

この研究を始めたきっかけはどんなことだったのですか?

音楽とはそもそも何なのか、脳内現象である音楽認知とは何かに興味を持ち続けてきました。テクノロジーを活用し、人と人を結びつける新しいアートの形をつくり、アートと社会を深くつなぎたいと考えています。

私は高校を卒業してすぐにドイツに渡り、ベルリン芸術大学で現代音楽の作曲を学びました。作曲を続ける中で、新しい技法や当時のアートの潮流に触れ、その領域で活動を続けていましたが、これらのアートの延長線上だけではなく、この領域の外側にもっと違った形のアートがあるはずだと思い始めました。ドイツで新しいテクノロジーに興味を持ち、コンピューターミュージックやその当時ようやく可能となってきたVRなどのテクノロジーも取り入れ、1993年にはドイツのZKM(ドイツ南西部の都市カールスルーエにあるヨーロッパ最大のメディア芸術センター)でVRを使ったマルチメディアオペラを作曲、制作しました。ZKMではテクノロジーを活用し、様々なメディアアートのプロジェクトを行いました。

「空間楽器」が社会にどのように役立つとお考えですか?

「空間楽器」は、音楽を通じて人々を繋げる新しい手法の提案です。例えば「空間楽器」を使って、障害を持つ方々、子どもたちや高齢者も含め、誰もが気軽に参加できるインクルーシブなコンサートを実現しました。地域や国を越えて多様な人々が一緒に音楽を楽しむことで、音楽を一種の共通言語として、異なる背景を持つ人々が共鳴し合う機会を創出し、社会的な絆を強化することができるかもしれません。

空間楽器を使った、インクルシーブコンサート ©古川聖

研究の進捗や成果について教えてください。

現在、大小いくつかのイベントにて実証実験を行っています。最近では国際会議の200人規模のイベントで大勢の参加者が自らのスマートフォンを使って一緒に音楽を演奏しました。皆のこころが繋がり会場は熱気に包まれ、大きな成果を得ることができました。

この技術に関連した特許申請も進めており、先進的な音楽体験を提供する技術としてその活用方法を探っています。さらに今年開催予定の大阪万博では、本技術を用いたブースを設置し、パビリオン全体を使った音楽イベントも計画しており、より多くの人々に体験していただく予定です。

国際会議での演奏の様子 ©古川聖

研究を進める上で直面した課題やブレイクスルーについて教えてください。

最大の課題は、様々に異なるスマートフォン間の音声の遅延を如何にして正確に同期させるかでした。まずは各デバイスの遅延を個別にその場で測定し調整するアプリケーションを開発し、さらに新たに開発したシステムでは、その手間を可能な限り省く工夫をおこないました。これにより、大規模なイベントでも、会場に大写しされたQRコードを参加者が読み込むことでもスムーズに音楽に参加できるようになりました。

今後の展望や目指す方向性について教えてください。

「空間楽器」をさらに発展させ、より多様な音楽体験を提供したいと考えています。具体的には、野球場や大型イベント会場などでの活用など多人数が参加するイベントでの一体感を高めることを目指します。また、最近では理化学研究所のBCIのチームの協力をえて、脳波データと連携させた新しいアートプラットフォームの構築も視野に入れており、AIや脳科学と連携することで、さらに深いコミュニケーションの可能性や広がりを探求しています。

若い研究者や学生に対して、どのようなメッセージを伝えたいですか?

アートとテクノロジーの接点において、社会に新しい価値を創造することの可能性、重要性を伝えたいです。研究や開発は、領域特有の固定観念にとらわれず自由な発想から生まれることが多く、理系の研究者の方にはアートからの発想という、違った切り口の可能性についても考えていただきたいと思います。そこから新しい発見や技術が生まれるかもしれないし、文理、アート融合型の研究やプロジェクトに積極的に挑戦することで、新しい何かが生まれ、社会に貢献できる幅広い可能性が広がるかもしれません。

※本ページの情報は、2025年3月10日掲載時点のものです。