パルス放電を用いたプラズマアクチュエータによる能動的気流制御技術の開発(2016年採択)、低温・低圧環境下における放電プラズマを用いたCO2分解技術に関する研究(2022年採択) 小室 淳史 氏

小室 淳史 氏 プロフィール

  • 2014年3月 東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学 博士課程修了
  • 2014年4月~2020年3月 東北大学工学系研究科 電気エネルギーシステム専攻 助教
  • 2020年4月~2024年3月 東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端エネルギー工学専攻 助教
  • 2024年4月~ 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 環境創生研究部門 主任研究員

小室氏は、先進的な気流制御技術とCO₂分解技術の開発を通じて、交通・物流における環境負荷の低減や未来の火星滞在に向けた基盤づくりを目指しています。小室氏の研究とその社会的意義について伺いました。

2016年に採択された研究テーマについて教えてください

2016年に採択されたテーマは、「パルス放電を用いたプラズマアクチュエータによる能動的気流制御技術の開発」です。気流制御技術は、車や新幹線、飛行機といった移動体における空気抵抗を減少させ、エネルギー効率を向上させるために重要です。既存の機械式気流制御装置は反応速度が遅く、乱気流などの変動に対応が難しいという課題がありました。私の研究では、電気式のプラズマアクチュエータを用いることで、迅速な気流制御を実現し、より高速度の移動体にも適用可能であることを示しました。具体的には、車の速度までしか対応できなかった技術が、飛行機の離着陸時の速度まで対応できるようになりました。この技術は将来的に他の高速移動体にも応用できる可能性があります。

この研究を始めたきっかけはどんなことだったのですか?

子供の頃から航空宇宙工学に興味がありましたが、大学では電気工学を専攻しました。私は博士課程まで高電圧工学、放電プラズマを研究していたのですが、博士課程を終えた後、自分のテーマとして何をやるか考えた時に、自分の研究を、子供の頃からやりたかった航空工学と何とか結びつけられないかなと思い、この研究を始めました。

研究を進める上で困難だったことはありましたか?

この研究を始めるにあたり、流体力学の知識や風洞実験の技術が不足していましたので、人脈をつくり、専門家から教えてもらいながら技術を習得しました。そして、財団の助成金のおかげで必要な機材を整え、実験環境を構築することができました。博士課程が終わった直後で資金が不足していた時期に、助成金をいただけたことは非常に助かりました。研究実績がなくても応募申請書の中身で評価していただき助成に採択されたことや、応募から審査・採択、助成金受け取りまでの期間が短かったことなど、当時としては大変ありがたかったです。

2016年のテーマのその後の展開について教えてください。

現在は、ヘリコプターに適用できるかどうかを研究しています。ヘリコプターの翼は回転しているため、常に翼の向きに対する風の向きが変わります。電気的な気流制御装置は応答時間が早いため、回転に合わせて揚力を調整できると考えています。

次に2022年に採択された研究テーマについて教えてください。

2022年に採択されたテーマは「低温低圧環境下におけるプラズマを用いたCO₂分解技術に関する研究」です。この研究は、火星環境を想定し、CO₂を分解して酸素と一酸化炭素を生成する技術の開発を目指しています。人類が目指すべきなのは月の次は火星と言われていて、将来的にはテラフォーミング(太陽系などの天体を改造して人類が居住できる環境に作り変える計画)や移住もできるのではと考えられています。火星の大気はCO₂で構成されていますが、放電プラズマを用いてCO₂を分解し、酸素と一酸化炭素を生成することで、酸素は現地滞在のための呼吸用に、一酸化炭素は燃料として利用できると考えています。

この研究を始めた理由はどんなことだったのですか?

これも個人的には航空宇宙工学への興味からです。NASAで同様のコンセプトがあり、火星で酸素をつくるために固体酸化燃料電池(SOFC)を使ったCO₂の分解が考えられていますが、非常に高温にしなければいけないとか、CO₂を圧縮しなければいけないなどの課題があります。放電プラズマを用いることで、これらは解決できるのではないかと考えました。

研究の進捗状況を教えてください。

最初は低温・低圧環境、つまり疑似火星環境を地上でどのように作るかを試行錯誤しながら、装置を設計し組み立てています。現在の装置はバージョン3で、パラメーターを変更して酸素の生成量を確認できる状況になっており、色々パラメーターを試しながら既存のNASAの装置よりも優れたものを目指していく段階です。

これも実績がなくても応募申請書の中身で評価していただき、助成に採択されたことで非常に大きな支援となりました。研究を進める上で欠かせない実験装置を購入することができました。

研究の今後の展望について教えてください。

低温・低圧環境下でも酸素と一酸化炭素が生成できる技術の実証に成功しており、次のステップとして酸素と一酸化炭素の生成量や生成速度の向上を目指しています。実用化できるように技術の改善を図っていきながら、進捗に応じて新たな展開も考えていきます。得られた成果を基に広範な分野での応用を考えたいですし、民間企業との連携も視野に入れながら、開発した装置を社会に役立てたいです。

最後に、これから研究者を目指す方々へのメッセージをお願いします。

私は航空宇宙工学に憧れていましたが、結果的に電気工学科に進むことになりました。大学院に進学する際、再び航空宇宙工学を専攻する選択肢もありましたが、最終的には電気工学を続けることにしました。描いていた夢とは異なる道を歩みましたが、博士号を取得した後、再び航空宇宙工学に関わる機会が訪れました。航空宇宙工学関係の学会では電気の知識を持つ人材として重宝されることが多く、解説や発表の依頼を受けることもあります。

自分の思い描いていた道と違うからといって諦めるのではなく、その分野で一生懸命頑張れば、いつか自分のやりたいことと結びつくチャンスが必ず来ると思っています。また、異なる分野で研究を行った経験は、研究を進めるうえでの大きな糧になると感じています。2024年4月からは、産業技術総合研究所に転職し、環境負荷低減技術の開発に取り組んでいますが、これまで自分が得てきた技術や知識が新しい分野でどのように生かせるか楽しみです。

趣味はマラソンで、大学時代はトライアスロン部の主将だった小室さん。このインタビューの前の日曜日も、つくばマラソン大会のフルマラソンの部に参加されました。速く走るためにはどうしたら良いだろう、速く走れる人と速く走れない人の違いは何だろう、といつも考えています、と笑顔で語られていました。

※本ページの情報は、2025年3月10日掲載時点のものです。