お客様に聞く

すぐそこまで来ている次世代通信技術5Gの世界、既存の技術ながらビジネスチャンスが広がるIoTの世界、新たなネットワーク社会を見据え、計測を起点にソリューションを提供する

チエ ジュン 氏 /Jun Chié
キーサイト・テクノロジー 合同会社 職務執行者社長

シリコンバレーで産声をあげ、以来、電子計測事業を軸に76年。
ネットワークの新時代を見据え、包括的な計測事業を推進してきた。
日韓の五輪開催を契機に、アジアンマーケットを注視。
培ってきたコアテクノロジーが、5GとIoTの台頭で大きく発展しつつある。

電子計測事業に邁進、
76年の歴史を持つグローバル企業

計測ビジネスの話をしましょう。計測とは、モノづくりにおいて、モノが正しく作られているかを確認していく作業です。世の中に新しいモノが誕生するとき、つまり技術革新が起きるときに、必要不可欠な作業と言えます。キーサイトは、通信、防衛、半導体、コンピューターなどの分野で、技術革新に貢献しています。2014年にライフサイエンス・化学分析を営むアジレント・テクノロジー社から分離独立しました。その前はヒューレット・パッカード (HP) から、コンピューター、プリンタ以外の計測機器、化学分析機器、医療機器、電子部品事業の移管を受けて1999年に独立しています。HPは1939年にシリコンバレーで計測器メーカーとして創業してから、60年代の後半までは計測ビジネスを中心に成長してきました。キーサイトは、電子計測で76年もの歴史があるグローバル企業です。

計測ビジネスは、表面には表れにくいビジネスですが、世界各国の電子電機産業を支えているバックボーン的なビジネスだと思います。常にその産業の成長とともに発展してきました。HP創業時は第二次世界大戦中で、軍事的な分野で技術を磨いた歴史もあります。そうした中で、通信技術が発展し、やがて民間需要へとつながっていきます。

5GとIoTがキーワード、
ネットワーク新時代

キーサイトは通信技術のグローバル化と汎用化に支えられてきました。たとえば、1980年代に発売された初めての携帯電話は、非常に高価で限られた人だけが持つものでした。その当時は通話のみに限られ、国ごとに異なるセルラー (WAN: Wide Area Network) と呼ばれる通信方式でした。これがデジタル化され、日本でもPHSやPDCが使われる1990年代頃から、徐々に通信規格の統一化が進み、今ではグローバルで共通のテクノロジーを使って、国を越えて接続できるツールに変わってきています。さらに、普及率が上がるにつれ、1台あたりの携帯電話の価格は目に見えて安くなり、一般の人でもあまねく手に入るものになりました。使う人々が広がると、使う用途も広がります。当初は、人の音声の通話を行うだけだった携帯電話が、スマートフォンのようにインターネットを介してのデータ通信端末に変わっています。データ通信をより簡便に行うために、セルラーに加え、無線LANなど、さまざまな形で通信技術も発展してきました。

通信はあらゆるものをつなげていきます。あるときは自動車、あるときは医療。ネットワークが新時代に入って、あらためて通信技術が見直されてきています。計測は、こうした流れの中で規格化、共通化を行う上で必要とされてきました。

今、通信は新たなトレンドが見えてきている時代です。たとえば5GやIoTで叫ばれるように、世の中のモノすべてがつながる世界となり、個別の発展が大きな関係性を持つ世の中になります。

今はWi-Fi®でのつながり、Bluetooth®でのつながり、さらに、もっともっと違うものをつなげようとするトレンドがあり、データ伝送の量が増えようとしています。それに対応するために、WiGigというミリ波帯での通信やオプティカルネットワークを介して高速化し、帯域幅が広がり、マルチ化してきます。そして、データ通信速度が高まると、クラウドが発展し、手元のデバイスでのデータ処理や保管の必要がなくなってきます。

こうした世の中の動きを受けて、計測という観点では、ミリ波や超広帯域解析などの新しい計測技術、大量のデバイスを高速に測定する技術、ネットワークを最適化する技術が求められるようになってきています。

キーサイトの歴史

キーサイトの電子計測事業の歴史は、1939年のヒューレット・パッカード (HP) の創業までさかのぼります。今やコンピューター関連機器メーカーとして著名なHPの創業事業だった電子計測事業は、1999年に「アジレント」として会社分割され、HPから独立。そして、その15年後に、再び会社分割によりキーサイトとして独立しました。

【社歴】

1939年 アメリカ合衆国カリフォルニア州パロアルトで、ウィリアム・ヒューレットとデビッド・パッカードが、計測機器メーカー「ヒューレット・パッカード」を創業
1999年 ヒューレット・パッカード社からの会社分割により「アジレント・テクノロジー」設立。コンピューター、プリンタ以外の全部門 (電子計測機器、化学分析機器、医療機器、電子部品) を移管
2000年 ヒューレット・パッカードが株式を売却し完全に独立
2001年 医療機器部門をフィリップスに売却
2005年 電子部品部門をアバゴ・テクノロジーとして分離
2006年 半導体テスト部門をベリジー・リミテッドとして分離
2009年 バリアン・インク (Varian, Inc.) を15億米ドルで買収することを発表
2013年 2014年にライフサイエンス事業を営むアジレント・テクノロジー社と、電子計測機器事業を営むキーサイト・テクノロジー社に事業を分割することを発表

【キーサイト事業領域】

事業分野
  • 電子部品、通信分野
  • 航空・宇宙・防衛分野
  • 産業機器・コンピューター・半導体分野
事業内容
  • 電子計測器 (オシロスコープ、標準信号発生器、スペクトラムアナライザー、ネットワークアナライザー、現場計測器等) の開発、販売
  • ソフトウェア (シミュレーションソフトウェア、解析ソフトウェア等) の開発、販売
  • カスタムソリューション、計測コンサルティングの提供
キーサイト事業領域

アジアンマーケットに期待
日韓の五輪開催が焦点

5Gは、4Gまでに培ってきた技術と、それとはまったく異なる新しい技術を融合させる野心的な次世代技術です。5Gでは、これまでの電波の常識が通用しない、60GHz、70GHz、80GHzといったミリ波の領域も扱わなければなりません。こうした技術的なチャレンジと同時に、どこでも超高速・低遅延・高信頼なネットワークが実現されるなど、さまざまな機会が広がっています。かつて、通信方式がCDMAとGSMで二極化していた時代、世界でもっとも普及したと言われる当時のGSMよりも、日本や韓国で利用されていたCDMAが技術的には確実に優れていました。個人的には、5Gは日本や韓国などのアジア圏がリードしていくものと思っています。CDMAとGSMの時代は、一つの規格で世界が統一される時代ではありませんでした。しかし、今は一つの規格が世界をつなぐ時代。特に、2018年に韓国の平昌 (ピョンチャン) で開催される冬季五輪、そして2020年の東京五輪、二つの五輪がアジアに通信の新しい時代を拓くような気がします。

一方、IoTの神髄はすべてをつなげるということ。IoTのための通信技術は新しいものではなく、すでに普及している技術を使うことができます。ただ、それぞれがつながるためには、さまざまな部品、たとえば通信モジュールも大量に必要になります。数が増えることは大きなビジネスチャンスです。とは言え、使い勝手と信頼性、ユーザーインターフェイスをおろそかにすることはできません。こうした通信モジュールやその他の部品の大量生産を、計測の観点からどうやってサポートしていくのか、それがキーサイトのミッションでもあります。

すでに、今までには考えられなかった新しい領域で通信技術が必要となり、ネットワークにつながっています。たとえば、米国では農業もネットワークでつながり遠隔で管理し、欧州では工場から排出されるCO2をLED照明で光合成してチューリップなどを栽培しています。こうした国ぐるみで農作物の育成を推進する取り組みは、農業革命「スマートアグリ」と呼ばれています。今後は、衣料なども「スマートファブリック」としてつながってくると思われます。そうすると、やはり人口増加の著しい中国、インド、東南アジアはまだまだ発展し、開拓の余地があるマーケットです。新しい領域でのビジネスモデルはまだ確立されていませんが、部品などを小型化し、大量に生産できる技術を持つ部品メーカーがチャンスをつかむことのできる時代ですね。

蓄積したノウハウすべてを提供
計測を軸に包括的なソリューションビジネスを始動

キーサイトのビジネスも変わり始めています。計測ビジネスは、単に測定してデータを取るための作業から、計測を軸としたコンサルティングやマネージメントを提供し、お客様が抱える事業課題へのソリューションを提案する包括的なビジネスへと発展しています。測定して情報を取るのは当たり前で、取った情報をどう解析をして、お客様の開発、製造、品質保証の過程でどう活用していくかが重要になっています。

グローバルで勝ち抜くためには、コストももちろん大切ですが、スピード感がもっとも重要です。製品をどうしたら世の中に早く出せるのかは企業として共通の課題です。製品を早く出すために、計測がからんでいるところに、お客様の時間をかけてほしくはありません。計測や解析など、計測器ができることは計測器にやらせれば、その時間をお客様のコアコンピタンスである業務に利用できます。キーサイトは、精度や確度が高く、短時間で測定ができるいい計測器を作るのは当然のことだと思っています。今まで蓄積してきた何十年間のベストプラクティス、グローバルでの経験やノウハウ、キーサイトのソフトウェア、ハードウェアのポートフォリオ、すべてを生かして、お客様にソリューションを、コンサルティングを提供していきます。

チエ ジュン 氏 /Jun Chié

可能性を高める事業展開、
キーサイトとムラタの企業文化

すべてがつながる世界で注目されるのは、センサー、コンポーネント、パッシブデバイスとアクティブデバイス、いずれも揃えているムラタさんのような部品メーカーです。ムラタさんは各部品の市場シェアも高く非常にいいポジションを得ているように思います。次世代に向け事業を拡大するために、必要なときはスピード感をもってM&Aを行い、製品のポートフォリオを広げていて、業績の伸びも著しい。SAM (Served Available Market: 対象となる市場) に対して、過去の実績や既存の市場をうまくとらえて、もっとも可能性の高いビジネスを展開しているわけです。人と社会を大事にしているムラタさんのカルチャーも成功を後押ししているのでしょう。

ムラタさんとキーサイトは、コーポレートフィロソフィー (企業文化) が似通っていると思います。バックボーンはエンジニアリングであり、イノベーション、テクノロジーであり、人を大切にしている企業です。HPは1939年の創業、ムラタさんは1944年、地球の正反対に位置しながら、同じ時代にスタートした会社で、顧客重視、ユーザー志向でモノづくりを進める点もよく似ています。ムラタさんとビジネスを一緒に行う上で、こうした文化が合うことも大切なことだと思っています。

今後の技術の発展とともに、ムラタさんとキーサイトの関係もさらに発展していくと思います。無線通信関係の部品やモジュールの数は飛躍的に伸びていきます。ムラタさんが求められるのは、信頼性を保ちつつ、小型化と低コスト化を進めること。お互いが企画段階から密接に協調することで、信頼性を保っていけるのか。キーサイトがムラタさんのビジネスにどう貢献していけるのか。新しい時代が訪れようとしています。

スマートアグリ、スマートファブリック

【オランダのスマートアグリ】

オランダの国土面積は日本の50分の1、耕地面積は日本の4分の1。曇り空が多いため日照時間が少なく一年中低温です。そして、農業人口は日本の7分の1以下の規模。それが、今や世界第2位の農業大国に成長しています。

農業輸出は日本の30倍に相当する680億ドルで、米国に次ぎ世界第2位。世界最高の黒字額250億ドルを出しています。このオランダの快進撃を可能にしたのがスマートアグリです。

スマートアグリには、あらゆるITが活用されています。植物工場における温度・湿度・養分の自動管理には、センシング技術やIoTによるネットワーク技術が使われています。省エネのために再生可能エネルギーも利用、蓄積され続けるビッグデータは、クラウド上で分析され、絶えず進化を続けています。

参考サイト: https://www.change-makers.jp/post/10444

【スマートファブリック】

人の体調管理にもIoTが利用されようとしています。生活習慣の見直しやスポーツのパフォーマンス向上などに、自身の生体情報を把握したいというニーズがあり、着用するだけで心拍数・心電図などの生体情報が取得できる機能素材が開発されています。スマートフォン向けアプリと連動させることで、クラウド上に計測したデータを蓄積でき、そのデータ分析を元にアドバイスが受けられます。すでに開発されている素材は、電極・配電材として使えるフィルム状素材を使い、薄く、伸縮性に優れているため、まずスポーツウエア中心に展開が進められています。加工は、導電性ペーストを弾性樹脂で挟みフィルム状にし、厚さは約0.3mmで着心地よく仕上げられ、伸縮性は100%以上と、皮膚より高い伸縮性があります。この素材をウエアの肌側に付けて、心筋などの電気信号を電極でキャッチ、搭載した通信デバイスでスマートフォンなどに情報を送り、心拍数などを計測する仕組みです。皮膚表面温度や発汗、加速度なども計測でき、スポーツ時の計測のほか、心拍数推移から眠気を検出し居眠り運転防止、リラックス度合いの検出といった用途も想定されています。

参考サイト: http://newswitch.jp/p/1678