Leader Talk

通信技術の扉が次々と開き、重要性が増すソフトリソース
もはやハードの優位性だけでは語れない、通信の世界

無線通信の発展は、モノとモノのコネクティビティを容易にした 周波数帯が広がり、サブギガからミリ波に至る 通信速度もGbps(ギガビット)の単位へ かつてなかった通信の世界が訪れようとしている

笈田 敏文/Toshifumi Oida
通信・センサ事業本部 通信モジュール事業部 事業部長

1988年入社。積層コンデンサ計測技法開発を担当。
1992~1998年、セラミック多層基板、高周波デバイスの開発を担当、
1998年より近距離無線商品に携わり、商品開発、セールスエンジニア、製造技術、品質管理業務に従事。
2011年より通信事業本部コネクティビティモジュール商品部部長。
2015年、通信・センサ事業本部の改組により現職。
趣味は音楽鑑賞、楽器演奏とドライブ。

有線から始まった通信は無線通信へと置き換わっている
無線になれば、もっとたくさんのセンサを置きたいという要望が高まり、センサと通信は一体のものになっていくだろう

メイン市場は3つ、
モバイル、オートモーティブ、IoT

通信モジュール事業部が、メインのターゲットにしている市場は3つ。一つ目は、すでに事業の大きな部分を占めているスマートフォン (スマホ) などのモバイル市場。軽薄短小化が大きな課題で、Wi-Fi®モジュールなどを機器内の基板に実装していく。二つ目はオートモーティブ。急速に電子化が進み、自動運転などにはセンサと通信の技術が不可欠となる。三つ目はエネルギーやヘルスケア・メディカル分野。モノとモノがインターネットでつながるIoT (Internet of Things) という領域でとらえており、ソリューションが重要だと思っている。アンテナを内蔵した通信モジュールに、ソフトウェアを組み合わせて、ユーザーが期待する結果をインターネットで遠隔地に送れる。そんなシステムを簡単に取り付けられるように作っていく。

ハードとソフトのマッチング、
無線通信ならデータ収集が容易

IoTでは、さまざまな場所にセンサ網をめぐらして、それぞれのポイントで値をモニターしてネットワークで集計する。それが家庭内であれば省エネにつながり、工場であれば危機管理や生産効率の向上につながり、車であれば自動制御、自動運転などにつながる。従来は有線でやっていたものもあるが、より効率的にデータを集めるために無線通信に置き換わりつつある。無線になれば、もっとたくさんのセンサを置きたいという要望が高まり、センサと通信は一体のものになっていくだろう。IoTのニーズとは、そういうものだと思っている。

ムラタはハードの製造会社ではあるが、通信用のデバイスとセンサが組み合わさることで統合したシステムが必要になってきた。ハードだけではなく、ソフトを組み合わせて使いやすくして提供するのが一つの役割だと思っている。通信のソフトであったり、ネットワークであったり、クラウドであったり、ハードをコントロールするものすべてを一体にして、ソリューションという形で提供していく。

異なるネットワーク同士を接続するためにはゲートウェイが必要。通信は、イーサネットでケーブルとしてつながっている場合もあれば、Wi-Fi®のような無線もある。ZigBee®のようなセンサネットワークのための近距離無線通信もある。この他にもBluetooth®やBLE (Bluetooth Low Energy) 、ユーザーによってはサブギガ帯やミリ波帯が要求されることもある。中継する機器は複数より一つが望ましいため、複数の通信プロトコルが入ったプラットホームを設計していく。そのためには通信技術のノウハウ、ソフトのノウハウが必須となる。

求められる通信の信頼性と堅牢性
今後はソフトのウエイトが高まる

すでにスマホにも複数の通信プロトコルが入っている。LTEがあり、Wi-Fi®があり、Bluetooth®も必須。通信モジュールとしては、それぞれにアンテナがあるため、通信が乱立してくると、電波の干渉が生じて不具合が起きる。そういうことをなくして、つなぎたい相手とだけ確実につなぐ、通信の「信頼性」や「堅牢性」をもたせるところに、ムラタの技術がある。ハード的には電磁妨害に耐えうる回路設計やノイズ対策がポイントだ。受信感度の高い精度を保つとともに、複数のアンテナが干渉しあわないようにレイアウトする。ソフト面では、通信時の同期の取り方、タイミングの工夫だ。こうした技術は、「Coexistence」 (共存) という言葉で表現される。通信の周波数帯域数が増加すると、相互に干渉しないようにする技術の難易度は高くなる。

ムラタのIoTの検討グループでは、ソフトの開発ウエイトがかなり高くなっている。開発拠点は日本にあるが、できるだけお客様の近くで開発しようということで海外拠点も充実させている。

求められるのは、低価格、低消費電力、大量生産のモノづくり
メーカーとしての可能性とマーケットが、大きく広がろうとしている

60GHz・7Gbpsの通信へ、
WiGig対応モジュールの発売

通信では周波数が高くなる方向にある。今後は、いわゆるミリ波の技術が必要となるが、中でもミリ波帯を使うWiGigという無線LAN規格に注目し、取り組んできた。60GHzで7Gbps程度の通信が可能だが、ミリ波帯の電波は到達距離が短く障害物に弱いため、主として同じ室内にある機器同士の接続に利用されることになりそうだ。すでにモジュール化された製品を出荷しているが、ミリ波帯のアンテナを数個~数10個並べ、アダプティブアレイという複数のアンテナ素子を配列した方法で指向性を制御する。アンテナ一つに対して、独立したRF回路が内蔵されており、各アンテナに入力するRFの振幅や位相をアルゴリズムで制御することでビームを動かすことができる。ソフトはICの中に組み込まれているが、アンテナやモジュールシステム全体の設計はムラタが担当する。

低価格、低消費電力、大量生産を、
小型化、汎用化を通して実現

ハード的な課題として、IoTでは低価格、低消費電力、大量生産が求められる。はたして、現状はどこまでできているのか。M2M (機器間通信) が普及しないのも、コストの問題があるのではないか。IoTの社会的ニーズが拡大するためには、価格訴求が重要だと思う。メーカーとしては、カスタマイゼーションしたものを汎用品におとし込む。ムラタにはIC以外のすべての部品が揃っている。その技術的なメリット、汎用化・標準化のメリットを活かして安く作る工夫をしていく。小さく作るということは量産性に有利であり、それが低価格につながる。ハードに組み込むソフトにも小型化は重要な要素で、いかに少ないメモリー、消費電力で動かせるかがポイントになる。目指すのは、使うメモリー量の小さいプログラム、「Small Footprint」。小規模のプログラムでいかにやりたい機能を実現するか、ソフトをコンパクトにして品質を保ちながら作れるか。ムラタの社内だけで強みを出せない部分は、パートナーと協働して質を上げていく。

可能性に満ちたIoTの世界、
技術を結集して貢献

IoTはまだ始まったばかり。諸説あるが、2020年には500億台の機器がインターネットにつながるという。通信の課題は、つなぎたい相手とつなぐこと。それがユーザーのやりたいことの価値にもつながる。われわれも案件は多数抱えている。営業に出ると、ベンチャー企業などから新しいビジネスでの応用例を聞くし、可能性を感じている。ただ、製品化されても、まだ数が少ない。みんながいろいろなことを考えているだけに、何かのきっかけで大ヒットが出るかもしれない。

業務のミッションとしては、IoTのすべてで手助けできること。そのためのデバイス、モジュール、コンポーネントを提供していく。これから訪れるIoTの世の中、その実現に向けて貢献していきたい。無線通信とセンサというIoTに不可欠な技術を持っているのが、ムラタの強み。ユーザーはどういう情報が欲しくて、どう加工したいのか。ユーザーにはそのサービスだけを考えてもらって、ハードとソフト、データを収集するシステムはわれわれが考えていく。いろいろなニーズがあると思うので、引き出しをたくさん持って、それらを実現していけるようにしたい。

【小型ゲートウェイ機器】

異なるネットワーク同士を接続するネットワーク機器のこと。プロトコル (通信のルール・規格) を変換し、異なるプロトコルを用いたネットワークをつなぐ役割がある。

小型ゲートウェイ機器

●WiGigモジュール

Wi-Fi®を始めとする無線LANを高速化する規格として「WiGig」が注目されている。WiGigとは、周波数数十GHzのミリ波帯の電波を利用してGbpsクラスの通信速度を実現する無線LAN規格のこと。当初の規格では60GHzで7Gbps程度の通信が可能となる。Intel社やMicrosoft社などが参加する業界団体Wi-Fi Alliance®が規格を策定している。近年、モバイル機器の普及により通信量が急増しているが、WiGigはWi-Fi®の10~100倍のチャンネル帯域を使えるため高速通信を実現できる。

ミリ波帯の電波は到達距離が短いため、同じ室内にある機器同士の接続には有利だ。その一方、周波数が高いため伝搬損失が大きい上に、波長が5mmと短いため直進性が強く、人体等でも遮断されやすい。そこで、WiGigではビームフォーミングにより放射電波に方向性を持たせ、部屋内での見通し、または壁面反射により障害物を回避するなどして近距離の機器間直接通信を行う。

WiGigのギガビット通信はスマートフォンやカメラの映像・音声ファイル転送、またアクセスポイントを介した高速クラウド通信にも使える。このWiGigの高速通信をWi-Fi®と両立させれば、ビッグデータ時代の無線LANをより快適に使える。今後はPCやスマホなどに搭載され、AV機器との映画や撮影した動画のやりとり、ドキュメントのやりとりなどに使われていく。さらに、モバイルの基地局間通信、バックホールなど基幹系の通信にも使われようとしている。ムラタではさらにアンテナの数を増やし、パワーアップした製品の開発を行っている。

笈田 敏文

ムラタにはIC以外のすべての部品がある
その技術的なメリット、汎用化・標準化技術のメリットを生かしていく
ソフトにも小型化は重要、いかに少ないメモリーで動かせるかが課題