アプリケーションノート

タイヤ空気圧監視システム用の表面実装型加速度センサ素子

タイヤ空気圧監視システム (以降TPMS) は、自動車のタイヤ内の空気圧を管理することでドライバーを危険から守るシステムで、加えて環境にも優しいということで、現在欧米を中心に世界中で非常に大きな注目を集めています。ムラタの表面実装型加速度センサ素子 (ショックセンサ) はその特徴を生かして、TPMSには欠かせない部品となっています。ここでは、表面実装型加速度センサ素子の特徴とその役割について紹介します。

TPMS (Tire Pressure Monitoring System) とは

TPMSとは、タイヤ内のバルブ部分に実装され、内部に組み込まれた気圧センサと温度センサでタイヤの空気圧や温度を測定し、その情報を無線通信機能で車体側のレシーバーに送り、もし空気圧や温度に異常がみられた場合、インストルメントパネル上にその情報を表示してドライバーに異常を知らせるシステムです。

このTPMSは世界的に急激な広がりをみせており、2007年9月から米国で、2012年11月からヨーロッパで、さらに韓国でも2013年の1月からTPMS装着が法制化されています。近い将来、日本や中国でも法制化されるといわれており、今後TPMSはより私たちの身近なものになっていくでしょう。

TPMSの開発のきっかけは、2000年に米国で起きたタイヤの空気圧低下によるバースト事故で、自動車走行の安全性向上を目的に開発されました。さらに、その後、タイヤの空気圧を適正に保つことで燃費が向上し、CO2削減にも効果があることがわかり、環境に優しいエコな製品としても注目されるようになりました。

また、空気圧の適正化によってタイヤ寿命が向上するため、省資源・廃棄物削減という面でも環境に大きく貢献しています。安全性の向上、環境に優しいという2点から、TPMSは今後さらなる市場拡大が見込まれています。

表面実装型加速度センサ素子とは

表面実装型加速度センサ素子 (ショックセンサ、以下同様につき省略) (図1) は、圧電セラミックスを用いた加速度センサの一種です。

圧電セラミックス (チタン酸バリウムやチタン酸ジルコン酸鉛等) とは、力を加えると電気エネルギーを発生させ (圧電効果) 、反対に電気エネルギーを加えると力を発生させる (逆圧電効果) セラミックスのことです。その優れた特徴は、電気-機械変換効率が高い、比較的自由に形状をつくれる、特性の自由度が大きい、量産性に優れるなどで、加速度センサだけではなく、超音波センサなどにも広く展開されています。

加速度センサの中でも特に共振周波数が高いもの (約20kHz以上) を表面実装型加速度センサ素子と呼んでおり、急激な加速度を拾うのに適しています。反対に、重力による自由落下のような緩やかな加速度を検知するのには適していません。構造は、素子 (圧電セラミックス) を上下から基板で挟んだサンドイッチ構造 (図2) をしており、衝撃 (加速度) を受けることで、内部のセラミックスが変形し、セラミックスの圧電効果によって電荷が発生し、衝撃を検知したことをセットに伝える役割を持つ電子部品です。その検知幅は非常に広く、歩行時に身体にかかる小さな衝撃から、車の衝突のような大きな衝撃まで、その用途に応じてさまざな衝撃を検知することが可能です。

Fig. 1

図1

Fig. 2

図2

表面実装型加速度センサ素子の特徴

ムラタの表面実装型加速度センサ素子には、大きく分けて以下の3つの特徴があります。

小型、低背

現在、TPMSに搭載されているムラタの表面実装型加速度センサ素子の中で最小のものは4.8×2.3×1.3mmとなっています。この大きさにより、現在急速な勢いで小型化が進んでいるTPMSにおいても実装可能となっております。

高信頼性

TPMSに搭載される表面実装型加速度センサ素子はタイヤ内部に装着するため、劣悪な路面環境下での振動、氷点下から100℃付近にまで変化する広温度範囲、100%近くになる高湿状態などの過酷な環境に耐えることのできる性能を備えています。

検知角度がフレキシブル

表面実装型加速度センサ素子の衝撃検知は、素子の向きによって検知しやすい角度が異なっています。ムラタの表面実装型加速度センサ素子は素子の向きの異なるさまざな種類のセンサが存在し、お客さまのご要望に応じて組み合わせた、最適なセンサを選んでいただくことができます (図3) 。

品番 外観 検出軸
[度]
感度 静電容量
[pF]
共振周波数
[kHz]
電圧
[µV/ (m/s2)]
{mV/G}
電荷
[fC (m/s2)]
{pC/G}
PKGS-00TAV-R 外観 0 81.6{0.800} - 245 39
PKGS-45TAV-R 外観 45 78.5{0.77} - 195 37
PKGS-25TA-R 外観 25 - 20.9{0.205} 240 39

図3:MURATATPMS用の表面実装型加速度センサ素子のラインアップ

表面実装型加速度センサ素子の役割

車載市場における表面実装型加速度センサ素子の用途は、エアバッグに始まり、現在はTPMSを中心に拡大を続けています。近い将来、日本を走る車にもTPMSが搭載されるようになるでしょう。

では、表面実装型加速度センサ素子はTPMSの中においてどのような役割を果たしているのでしょうか?先ほど述べたように、TPMSはもともとドライバーの安全性を考えて作られたものです。したがって、車体が動いていない場合はTPMSの必要性は低いため、動作しているとかえって電力の無駄遣いになってしまいます。

そこで、表面実装型加速度センサ素子の搭載によってある一定以上の衝撃を検知したときのみTPMSを動作 (図4) させるようにし、タイヤ空気圧の検知とその圧力データの送信を走行時のみに限定すると、特にデータ送信用の無線通信回路の消費電力を低減することができます。これがセットの動作時のみ電源をオンにし、非動作時には自動的にスリープ状態にするウエイクアップ※1と呼ばれる用途で、セットの低消費電力化に大きく貢献しています。

Fig. 4 Tire rotation and sensor output

図4: タイヤ回転とセンサ出力

現在のTPMS市場では、ウエイクアップ用途として表面実装型加速度センサ素子に並ぶ技術として、半導体ベースのMEMS※2 (Micro Electro Mechanical Systems) による技術も使われており、この2つで市場シェアの大半を占めています。また、現行のTPMSは電池で動作し、数年~10年間の電池寿命が求められることから、低消費電力化はTPMSメーカーからの重要な要求となっています。

さらに、実装場所がタイヤのバルブ内ということで非常に高い信頼性も求められています。ムラタの表面実装型加速度センサ素子は低消費電力化と信頼性の厳しい要求を満たしており、それによって現在市場のシェア50%以上を獲得しております。今のところ、表面実装型加速度センサ素子を用いたウエイクアップはTPMSのみにしか適用されていませんが、低消費電力化の流れが広まっていけば、将来的にはTPMSだけでなく、BEMS※3 (Building and Energy Management System) やHEMS (Home Energy Management System) のセンシング技術やそのデータを保管するサーバーに組み込まれたり、家電や携帯端末に搭載されたりするなど、TPMS以外にもさまざまなシチュエーションでの利用が期待されています。

これからのTPMS

市場に出ている多くの電子機器と同様、TPMSも近年小型化が進んでいます。TPMSの小型化による1番大きなメリットはタイヤのバランスが良くなるということです。先ほど説明したように、TPMSはタイヤのバルブ内に取り付けられるため、大きければ大きいほどタイヤのバランスが悪くなってしまいます。それゆえ、TPMSの小型化はこの先も進んでいくものと予想され、それに伴い表面実装型加速度センサ素子も現在の信頼性を保ちながら、さらなる小型化を進めていくことが要求されるでしょう。

今はタイヤのバルブ内に取り付けられている表面実装型加速度センサ素子ですが、小型化が進むと次はどうなるのでしょうか?安全性をさらに高めるため、よりダイレクトにより精度よく、危険であるという情報をドライバーに送るには、TPMSをタイヤそのもの (トレッド) に取り付けることが考えられます (図5) 。そうすれば、例えば、舗装されておらず凸凹な路面、真夏の太陽に照らされ100℃前後まで温度が上昇した路面、冬の凍結した路面などを走行する際、タイヤに変化が起こるよりも前に、いち早く路面情報からドライバーに危険を伝えることが可能となります。

Fig. 5

図5

しかしながらトレッドにTPMSを実装する場合、現在のバルブ内に実装する場合と比べて、さらなる小型化と厳しい信頼性が求められることになります。そうなった場合、現在の半導体ベースのMEMSは温度変化にそれほど強くないため、私たちはお客さまに対して常に表面実装型加速度センサ素子という選択肢を示し続けていく必要があります。

今後TPMSがより小型化、薄型化していくことを求められる中で、ムラタが持つモジュール技術の活用や、圧力センサ等の他センサとの組み合わせ技術の検討により、私たちはトータルソリューションの提案を行いTPMSの小型化、薄型化に貢献していきたいと考えています。

さいごに

近年、地球温暖化の進行などの環境問題と相まって、省エネルギーに対する取り組みは世界中で行われています。先頃、京都議定書が2020年度末まで延長されたこともあり、今後省エネルギーへの要求や関心はさらに高まっていくでしょう。

ムラタの表面実装型加速度センサ素子の特徴を生かせば、TPMSのみならずさまざまな製品の省エネルギー化に貢献することができます。私たちは、性能だけでなく環境の面でも、お客さまとさらにその先のお客さまである皆様にとって、常に魅力的な機能を提案できるサプライヤーであり続けたいと思います。

用語解説

*1 ウエイクアップ:

ここでは、静止中のタイヤ内情報のRF通信頻度を減らす低消費電力モードから通常起動モードに切り替わることを指す。

*2 MEMS:

センサなどの電子部品や、電子回路を一つの基板上に集積化したデバイス。

*3 BEMS、HEMS:

ビル等の建物内や家屋内で使用するエネルギーを計測・蓄積し、ビル内の機器の制御やデマンドピークの抑制・制御を行う管理システム。