Leader Talk

すべてはお客様のため 未来に向け、現状を変え新しい技術の確立に挑む 大きく変わりつつあるEMI事業部

デジタル化の大きな流れによって、EMI対策の需要も増えたが、競合も増えた。従来は三つの工法の確立で、他社に対する優位性を保ってきた。今後、さらに勝ち進むには全方位的な技術対応が必要だ。新しい工法を模索し、新材料を検証し、マーケティングを徹底する。ここ数年で、EMI事業部は大きく変わろうとしている。

野路 孝志/Takashi Noji
コンポーネント事業部 EMI事業部 第1商品開発部 部長

1984年福井村田製作所入社、電気二重層コンデンサ開発に従事。その後、コンデンサ関連の製造技術/開発を歴任。
超小型コンデンサ (0603/0402サイズ) 、車載用コンデンサ、基板埋め込み用コンデンサなどの開発を担当。
2012年よりEMI事業部。過去に培った積層技術、実装技術をベースに、顧客志向のモノづくりをめざす。
趣味は愛犬と戯れること。

EMI事業部では3市場をターゲットにしている。
コモディティ市場と車載・産電・新規市場、そして未来市場である。
およそ1年をかけて、未来に向けた部品づくりを模索してきた。
新しいマーケット開拓のために進めてきた試作品の完成が目前に迫る。
すべてはお客様目線、お客様のために何が必要なのか、
いよいよEMIの新市場が切り拓かれるときがきた。

新技術の開発とコストへの対応、この両輪でEMI市場を勝ち抜く

ノイズ対策部品については、文字通り、ノイズの抑制が課題。その解決に向け、製品のさらなる進化をめざしている。インダクタには、「パワーインダクタ」と「RFインダクタ」がある。パワーインダクタには明確なトレンドがある。電流を多く流す大電流化だ。RFインダクタは、Q値 (品質係数) が優れていなければならない。最先端での方向性は明確だ。この方向に沿って、技術面でしのぎを削り、開発競争に打ち勝っていかねばならない。

一方、部品づくりにおいては、コスト面も重視する必要がある。今やEMIの製品は多くがスマートフォンやタブレットに使われ、ビジネスの規模が大きくなってきている。需要が増えれば、競合が増える。この競争に打ち勝っていかないと、市場を奪われる。それだけではない、せっかく切り拓いた最先端の分野でも同様のことが起こり得る。EMI事業部が戦っていかなければならない戦線は多方面にわたっている。

もはや3工法だけでは不十分、現状に満足せず新たな工法を探る

EMIの技術的背景として、三つの製造方法 (工法)がある。「巻線」「薄膜 (フィルム) 」「積層」である。この3工法を自社内に保有していることは、ムラタの大きな優位性である。しかし、もはや、これらだけでは足りないと思っている。三つの工法は、「マーケティング」と「材料技術」の兼ね合いによって、どれを採用するのかが決まってくるので、我々としては、これらを組み合わせて、お客様の要求を満たしていく。できる限り多くの工法・技術を持ち、それぞれを組み合わせることで、要求を満たすためのベースを作りたい。

EMIの場合、お客様が組まれた回路にあわせて対策を考える。どんな回路が組まれるかはわからない、回路もICの構造もお客様によって違う。ムラタには、ESI (Early Stage Involvement) と呼ばれる活動がある。製品開発の段階からお客様に密着し、的確な提案を継続して行うものだ。開発動向に関する情報をどれだけ的確に把握しているかで勝敗が分かれるEMIにおいては、技術マーケティングが欠かせない。

材料技術の面では、東光 (株) との提携が大きい。同社には、他社に先駆けて開発した金属系磁性材料、および加工技術のノウハウがある。今後、関係が深まっていけば、特にパワーインダクタの分野では大きな成果があがると思う。

EMI三つの工法

  1. 巻線: 電線を巻いて作る工法。0.8mmの長さのコアに、細い銅線を巻きつけられるところまできている。パワーインダクタ・チョークコイル・高周波コイル (LQH、LQWシリーズ) 、コモンモードチョークコイル (DLWシリーズ) など。
  2. 薄膜 (フィルム) : エッチング技術を利用してパターンを露光して、薄膜でコイルを作り出すもの。10µm幅での形成が可能。高周波コイル (LQPシリーズ) 、コモンモードチョークコイル (DLPシリーズ) など。
  3. 積層: セラミックコンデンサにも使われている技術。厚さ数十µmのフェライトシートを成型し、何層にも重ねあわせる。パワーインダクタ・チョークコイル・高周波コイル (LQG、LQMシリーズ) 、コモンモードチョークコイル (DLMシリーズ) 、フェライトビーズ (BLMシリーズ) など。

ムラタでは、より高性能で、より使いやすく、より安価なノイズ対策部品、インダクタ部品を提供できるよう、三つの工法を駆使して革新を続けている。

技術のロードマップを工法別から機能別に変えることで、横断的な交流が図れ、いろんな人たちが入り混じって議論するようになってきた

機能別のロードマップをもって、技術開発の発想を広げる

三つの工法以外にも、配線をめっきで形成するという工法がある。あるいは、L (コイル) を担当している人がC (コンデンサ) との組み合わせを考え、理想的なコイルとコンデンサを作り上げる、といったことも可能だ。三つにこだわる必要はない。それぞれを進化させた上に、組み合わせて融合し、新しいシナジーを引きだす。

最近、社内の技術ロードマップを変えた。今までは三つの工法ごとにマップがあったが、例えばパワーインダクタのロードマップなど、用途別・機能別にすることで、新しいコラボができるようになってきた。お客様にすれば、工法や材料は何でもよく、用途と機能を満たせればいいはず。実は巻線工法はセクションが違うのだが、ロードマップを機能別に変えると、横断的な交流が図れ、巻線のコアにこれまでと違う材料を使用したらどうかなど、いろんな議論がなされるようになってきた。技術開発は発想の広がりがベース、何かのきっかけで発想が広がれば、お客様に新しい提案ができる。

「未来市場」の開拓、アイデアが形になれば市場が見えてくる

EMI事業部では、市場を三つの方向で考えている。モバイルを中心とした「コモディティ (一般商品化) 市場」、クルマや通信インフラなど「車載・産電市場・新規市場」、そして「未来市場」である。コモディティ市場は汎用品を中心に、前述の通り、コスト競争に打ち勝つ技術が必要。車載・産電市場はカスタム性が強く、大電流化と高信頼性を実現するための新たなモノづくり技術が要る。

今後、力を入れていきたいのが未来市場。2013年4月より、シーズの抽出から活動を始め、未来にはどのようなものが求められるのか、組織横断で3グループを組んで議論している。1グループ2案を出し、さらに2案を部門長投票で選び、試作品を作ろうという段階まで進んでいる。今後、通信機器がウェアラブルになれば、どのような部品が必要になるのか。高齢化社会の進展により補聴器の需要が増すが、そのノイズ対策はどうするのか。こういったことが検討され、いろいろなアイデアが生まれている。試作品ができれば、お客様に見ていただき、そこで初めて「この機能は要らない」「もっと違う用途がある」という話になる。EMIにおける新市場の開拓は、試作品を持参するところから始まる。

用途に応じ最適な部品を提供、お客様がEMI事業のすべての基点

お客様に最適な部品を提供するために、「アプリケーション開発課」を設置している。お客様にお困りごとがあれば、評価ボードを利用して、どういう部品がベストなのか、提案することを進めている。ノイズ対策でいえば、どんなノイズがどう出ているのかがわからない場合、ムラタが保有する電波暗室などを利用して徹底的に調査。そして、既存の部品で対応できるのなら、そのように処理し、できなければカスタマイズして提案する。EMI事業のすべての基点は、お客様だと考えている。

アプリケーション開発

アプリケーション開発とは、お客様視点で期待される部品を考え、回路に最適な部品を創造していくこと。ムラタのEMI部品開発は、このアプリケーション開発を軸とし、無限の可能性を追い続ける材料開発や他の部品群の中で確立された三つの工法などを使って発展してきた。しかし、現状ではこれらの横展開だけでは対応できない領域も出てきており、外部の技術動向を把握しながら、常に革新的な技術の確立をめざしている。例えば、高精度にコイルを形成する技術、抵抗の小さいコイルを形成する技術、高効率を実現する技術。これらを既存のコア技術と融合することにより、さらにハイレベルにお客様の期待に応えていきたいと考えている。 (ムラタインダクタHPより)

アプリケーション開発