Leader Talk

世界を舞台に、挑戦は始まっている どう作り、どう売っていくのか、EMI事業の歴史が変わろうとしている

ムラタの製品は海外での売上比率が高い。ノイズ対策部品やインダクタなどEMI製品も同様で、モバイルなどの分野では小型・高精度・高機能のモノづくりが、高く評価されている。コストダウンの要求にも積極的に応え、その製造ノウハウを次世代商品のモノづくりへと生かす。課題は新たなマーケット。世界の車載・産電市場への挑戦が始まった。

佐藤 俊幸/Toshiyuki Sato
コンポーネント事業本部 EMI事業部 企画部 部長

入社以来営業を歴任。シンガポール、フィリピン、中国・深圳、台湾と海外勤務は通算14年に及ぶ。
台湾では営業に加え工場業務も経験していたことから、モノづくりである事業部への勤務を希望。
2012年10月から現職。

成長著しいEMI市場にあって、ラインアップの充実、世界に目を向けた販売戦略の構築を図る。
この挑戦を支えるのは、長年にわたり蓄積した海外経験、営業経験。機は熟した。
めざすところは「EMI事業」としての成長。
「ノイズフィルタ・インダクタならムラタ」、将来はそう呼ばれる存在に─。

モバイル分野では高評価、課題は車載・産電市場の強化

海外におけるムラタのEMIに対する評価は、スマートフォン、パソコン、タブレットなどのモバイル系の分野では非常に高い。いわゆる「コモディティ (一般商品化) 市場」では、ムラタが最も得意とする小さくて高精度、高機能の部品を数多く使っていただいている。一方、車載や産電の分野での存在感はまだ薄い。モバイルで使うより大型で、パワー化 (大電流) 対応の製品群では、まだまだラインアップ不足。ライバル企業は、企業買収を行うなどして、パワー化製品群を強化、この分野で差を付けられてしまった。

そうした中、ムラタは、大電流対応のインダクタなどを得意とする東光 (株) と2012年に資本・業務提携した。すでに製品の共同開発が始まっており、既存のものより一回り小さくて同じ性能を持つインダクタなど、力をあわせて新しい製品を作り出そうとしている。今後、東光が持つ材料技術とムラタが持つ微細化の技術を融合して、EMIのラインアップを増やし、海外での存在感を高めたい。

コストダウン要求に応え、厳しい市場を勝ち抜く

コモディティ市場では、海外の同業者との競争が激しく、永続的なコストダウンが命題となっている。永続的なコストダウン活動を支えるのは、製造・開発・セールスエンジニアリング・企画部門のスタッフで構成されたCFT (Cross Functional Team) だ。いわゆる、擦り合わせ型活動だが、これをEMI事業部の強みにしていきたい。コストダウンを工場に任せきりにするのではなく、開発は工場が作りやすいものを設計し、開発段階からコストを考える。量産開始後も工場とともにコストダウンの施策を考えていく。実現したいコストをメンバーが共有し、施策をさまざまな視点で決めていく。目標コストを実現し、販売機会を増やすべく、メンバー一丸となって邁進している。品質には絶対の自信があるが、価格でもお客様に満足いただけるように頑張っている。

コモディティ市場は、我々の主戦場だ。コスト的に厳しいが、諦めてはならない市場と考えている。厳しい市場で頑張ることで価格競争力も高まる。いいものを安く作るノウハウを蓄積することができる。このノウハウは車載・産電といった付加価値の高い市場向けの商品の開発・製造でも必ず役に立つと考えている。足腰を鍛え同業者との競争に勝っていきたい。

製品アウトライン

ムラタの主力製品であるセラミックコンデンサは世界シェア35%。携帯電話には約200個、パソコンには700個、薄型テレビには1,000個が使われている。EMI製品は、コンデンサほど多くはないが、それでもノイズ対策部品はスマートフォンに30~50個、インダクタも50~100個、合計でおよそ100個は使われている。いずれも、電気電子機器を動かすために必須の部品であり、これがないと携帯電話も、パソコンも、家電も、自動車も動かない。世界中の人々の生活に密着している。

コスト要求の厳しい市場でこそ頑張ることで価格競争力がつく 安くものを作れるノウハウは、付加価値の高い市場でも必ず役に立つ

大量生産から少量生産へ、売り方にも世界の地域差がある

今後、コモディティ市場に続く柱として「車載・産電市場」に注力していきたい。車載・産電市場では、コモディティ市場とは違った開発・モノづくり・売り方を考えていかねばならない。開発部門では、より多くの用途特化型商品、カスタム商品、信頼性が高い商品の開発が求められるであろう。モノづくりでは、大量生産から少量生産への転換が求められるであろう。売り方では、品質保証のあり方、お客様に提出するデータを再考する必要がある。お客様の技術的なニーズをくみ取るマーケティング活動をさらに強化する必要がある。より細やかな対応が必要であり、人・もの・金といった経営資源をより多く配分していきたい。モノづくりでは、工法別に工場長・製造部長が集まり新しいモノづくりのあり方について討議を開始した。

車載・産電市場では、コモディティ市場とは違った系列・独特な商習慣・システムインテグレーターとの関係構築などが存在する。世界に張り巡らされたムラタの営業チャンネル・サプライチェーン網、代理店などのパートナー網を有効に活用し、ビジネスを拡大したい。お客様の技術的ニーズを把握するマーケティング活動では、日本人セールスエンジニアを海外に駐在させるだけではなく、ローカルセールスエンジニアの育成に努めている。現地のお客様の真のニーズをくみ取るためには、ローカルの協力が欠かせない。自身の14年間の海外駐在の経験を振り返ってみると、現場の近くにいけばいくほど日本人である自身の無力さを感じる場面が多々あった。ローカルが現地の言葉で現地のお客様とコミュニケーションをとるほうが商談はスムーズにいくと思う。人材の多様性、育成は大きな課題だが、挑戦し続けたい。

設備投資を強化、ラインアップを充実させる

今後の目標は二つ。一つは先行した設備投資だ。数年前に需要の見誤りがあり、増産にかじを切ったが間に合わずお客様にご迷惑をかけたことがある。プロダクトライフサイクルの導入期、拡大期にある商品については、リスクはあるものの先行投資を実行し、供給面でお客様にご迷惑をかけないようにしたい。

もう一つは、EMI製品のラインアップを増やすこと。前述のように、車載・産電市場を狙うには、パワー系商品のラインアップ化がまだまだ不足している。東光との提携以外にも、外部パートナーとの協業やパテント契約など、いろいろなやり方を模索している。コモディティ市場でも、自社製品をスタンダードにすべく、ノイズ規制に関する動向をいち早くキャッチして製品を上市したり、ICメーカーとの交流などを図っていきたい。ラインアップがそろえば、お客様の評価も上がる。10年先のグランドデザインともいえるのが、「EMI事業」としての成長。「ノイズフィルタ・インダクタならムラタ」といわれるまでになることをめざしている。

エミフィル®

ムラタのノイズ対策部品、EMI除去フィルタは「エミフィル」という登録商標を取得している。1979年に日本初の3端子コンデンサとフェライトビーズを発表し、1980年から商標を使用しはじめた。この3端子コンデンサはその後のノイズ対策の主力となったもので、通常の2端子コンデンサよりも高域のノイズを減衰させることができた。さらにリード線を通したフェライトビーズを商品化し、ムラタのノイズ対策部品の基礎ができあがった。エミフィル®は、EMI除去フィルタの総称として現在でも使われている。 (metamorphosis No.7より)

「エミフィル®」は株式会社村田製作所の登録商標です。

BLMシリーズ

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