圧電振動波制御とその無鉛圧電セラミックスへの応用に関する研究
安藤 陽、南川 忠洋、木村 雅彦、澤田 拓也、小川 弘純、坪内 明、岡田 勉
本論文は、日本セラミックス協会の学術賞受賞に関し、関連する業績をレビューしたものであり、内容的には数年前の成果も含まれている。日本セラミックス協会学術賞の受賞記念論文として執筆したため、原論文は著者単名となっているが、ここではこの研究に携わった代表的メンバーの名を著者として掲げる。
圧電セラミックスは信号処理用のフィルタや発振子等の共振デバイス用途、電気信号を機械的な変位や振動、音に変換するアクチュエータやサウンダー用途、機械的な衝撃、応力を電気的な信号に変換するセンサ用途に幅広く用いられている。これらの電気的信号と機械的信号の変換においては、圧電体内部を伝搬する弾性振動波の挙動をコントロールすることが重要になる。
圧電セラミックスの分極構造の設計やグレイン構造の設計により、従来得られなかった特徴的な特性実現が可能になる。ここでは、セラミック積層技術を利用した圧電セラミックスの分極構造設計によるエネルギー閉じ込め現象 (弾性振動波が電極形成部に集中する現象) について紹介する。
分極構造設計による厚み縦振動のエネルギー閉じ込め
厚み縦振動の基本振動モードおよび奇数次高調波モードは厚みすべり振動の偶数次高調波モードと結合する。厚み縦振動基本波モード (TE1モード) は厚みすべり振動の2次高調波モード (TS2モード) と結合する。TE1モードとTS2モードの共振周波数が互いに近いところに存在するため、材料の弾性的性質の差により、波数と周波数の関係 (分散関係) が、お互いの影響を強く受けることになる。等方性媒体ではポアソン比が1/3より小さいとTE1モードの共振周波数がTS2モードの共振周波数より小さくなるため、 図1 (a) のようにTE1の周波数が波数の上昇とともに低下するという形をとる。
チタン酸鉛のように温度安定性に優れた圧電セラミックスはこの分散関係を示す。図1中、破線で示してあるのは電極を形成した部分に対する周波数変化である。また図1において、縦軸より右側は波数が実数であり、左側は波数が虚数であることを示している。波数が虚数であることは振動波が伝搬しないことを表す。TE1モードに関して電極形成部 (破線) と無電極部 (実線) の分散関係を見ていくと電極形成部が実数で無電極部が虚数となる周波数域が存在しない。
つまりTE1モードの振動波に対しては、電極形成部のみを伝搬し無電極部では伝搬しないという条件を満たす周波数域は無い。図2に示すようなTE1モード共振子を作製し、インピーダンス共振特性を測定した (図3 (a)) 。無電極部を伝搬し素子端部で反射した波が電極上で多数重畳していることが見てとれる。
一方、図4に示すような積層構造により励振される厚み縦振動の2次高調波モード (TE2モード) は奇数次の厚みすべりモードと結合し、偶数次の厚みすべりモードとは結合しない。したがってTE2モードの分散関係は最も共振周波数が近い厚みすべりモードTS4モードと結合しない。このためTE2モードの振動波に対しては弾性波の本来の分散関係、すなわち波数の上昇とともに周波数が上昇する分散関係が現れる。
図1 (b) にチタン酸鉛系圧電セラミックスのTE2モードの分散関係を示す。ここではTE2モードとTS3モードが結合している。TE2モードの周波数が波数の上昇とともに上昇していることがわかる。TE2モードに対しては電極形成部の波数が実数で無電極部の波数が虚数となる周波数領域が存在する (図1 (b) 中
で示した周波数領域) 。
すなわちこの周波数領域では電極部のみで振動波が伝搬する。このように特定の領域のみに振動波が伝搬する現象をエネルギー閉じ込め現象と呼んでいる。図3 (b) にTE2モードのインピーダンス周波数応答を示したが、単一共振の良好なインピーダンス共振特性が得られることがわかる。
損失が小さく (Q値が高く) 温度安定性に優れた厚み縦振動モードの共振子を実現することは長年の課題であったが、分極構造設計によるエネルギー閉じ込め現象を利用することで解決することが可能となった。
図1: TE1モード (a) 、および TE2モード (b) の振動波の分散関係
規格化周波数
であり、ここで共振子トータル厚みの半分をhで表している。
実線および破線は、それぞれ 無電極部を伝搬する振動波、電極形成部を伝搬する振動波の分散関係を示す。
図2: 単板のTE1モード共振子の構造概略図
断面図における矢印は圧電セラミックスの分極方向を表す。
電極径dは1mmで共振子の厚みは0.2mmである。
図3: TE1モード共振子 (a) 、およびTE2モード共振子 (b) のインピーダンス共振特性
図4: 積層構造を利用したTE2モード共振子の構造概略図
断面図における矢印は圧電セラミックスの分極方向を表す。
電極径dは1mmで共振子のトータル厚みは0.2mmである。
無鉛圧電セラミックスへの応用
次に無鉛圧電セラミックスにこの分極構造制御技術を応用した。一般に圧電定数が大きい無鉛圧電セラミックスを得ることは困難であるが、共振周波数温度特性に優れた無鉛圧電セラミックスを得ることも困難である。どちらも組成的相境界が必要であり、鉛系の圧電セラミックス以外で組成的相境界を持つものが見つかっていないからである。
我々は種々の無鉛圧電セラミックスの研究開発を進めてきたが、一部のビスマス層状化合物系材料が組成的相境界とは無関係に、良好な共振周波数温度特性を示すことを見出した (表1参照) 。
この材料 (SrBi2Nb22O9系材料) に上述の分極構造設計技術を応用することで、エネルギー閉じ込めを実現し実用的な共振特性を得ることができた。図5にインピーダンス共振波形を示したが、きれいな単一モード共振特性を示している。
図5: SrBi2Nb22O9系無鉛圧電セラミックスのインピーダンス共振特性
まとめ 将来の材料研究開発
ここで取り上げた「分散関係」は周波数と波数の関係であったが、周波数が一般にエネルギーに対応する量であることを考えると、固体の電子論で言うところのエネルギーバンドに対応するものとも考えられる。このように構造を制御することで、従来得られなかった特性を実現する技術は今後ますます重要になってくると思われる。
今後は進展するナノテクノロジーにより物質の微構造設計を行い、エネルギーバンドをコントロールすることで新しい物性の創成に挑戦していきたいと考えている。
原論文: "Resonance characteristics derived by structural design of thermally stable piezoelectric ceramics", J. Ceram. So. Jpn. 118 pp.855-861, 2010