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“10年間で10倍”の
精度向上を叶えた
小さな
センサで、命を守る

人が目、耳、鼻、肌、舌、三半規管などで感じることを検知して、電気信号に変えてくれる「センサ」。エアコンの温度センサ、自動ドアの人感センサ、タブレットやPCを操作するためのタッチセンサなど、センサとひと口に言っても非常に多くの種類があります。今回は、自動運転機能やドローン制御などに欠かせない「慣性力センサ」にフォーカス。商品技術を担当する加藤さんと開発を担当する西村さんに、小さなセンサが叶える大きな未来、「Small is Dynamic.」にかける想いについてお聞きしました。

通信・センサ事業本部 機能デバイス事業部の加藤さん(写真左)と西村さん(写真右)。

「モノの動きを計測する」ことで
自動運転やドローンの安全を守る

――慣性力センサとは、どんな役割を持つ部品?

加藤:「慣性力センサ」って、なんだか聞きなれない言葉だなぁと思われる方も多いかもしれませんが、これは物体の動き(加速度や回転)を測るセンサで、私たちの日常でもいろいろなシーンで使われています。身近な例では、デジタルカメラの手ぶれ補正機能でしょうか。センサで計測したカメラの揺れ具合を打ち消すようにレンズの一部を動かすことで、手ぶれを抑える仕組みになっています。モノがどの位置・向きに、どんな姿勢・速さで動いているのかを測ることができるのが「慣性力センサ」なのです。

西村:「モノの動きを計測する」と言っても、製品の用途によって「どの軸」の「どの動き」をセンシングするのかは異なります。今までは動作方向の軸のみセンシングしていましたが、昨今は自動運転やドローンなど製品が多機能化して安全性や利便性などが求められるようになり、動作していない他軸のセンサ情報も利用しながら、センサ全体で正しくセンシングできていることをチェックするようになりました。結果、今までと比べ計測したい軸や動きの種類が増えたとも言えます。

加藤:慣性力センサは自動車を安定した姿勢に制御する横滑り防止機能、農薬散布や測量・点検に使われる産業用ドローンの飛行制御ユニットなどに実際に活用されています。また、橋梁やトンネルなどの構造物にも組み込まれていて、建築時の安全管理やその後の維持管理の目的から傾きやズレなどのセンシングを行なう、といった用途もありますね。

大幅な“精度向上”に加え、
長く品質を保つ“耐久性”も
不可欠だった

加藤:当社の慣性力センサは10年で10倍の精度向上を実現することができました。「10倍の精度」は、自動運転で100m進んだときに車体の半分ほどズレていたのが、タイヤの幅1個分未満のズレに改善されたというイメージですね。

自動運転車において重要なのは、「車の姿勢(傾き)や進行方向を正しく検知すること」で、それができなければ意図した通りに走行できなくなります。私たち人間は、歩いているときに目で周囲を見て、自分がまっすぐ進んでいるかどうかを確認し、ズレていれば自然に修正します。しかし、目を閉じたまま歩くと、まっすぐのつもりでも少しずつズレてしまい、思った場所にたどり着けないことがありますよね。自動運転車も同じで、カメラなどを使って周囲の状況を視覚として認識できますが、トンネルや濃霧など、視界が悪い環境では視覚情報だけでは正確な判断が難しくなります。そうした状況でも安定して走行するために、慣性力センサが重要な役割を果たします。わずかな誤差でも、走行距離が長くなるにつれ大きなズレとなって現れるため、高精度なセンサが不可欠なのです。

西村:その通りです。ですが自動車の場合、過酷な温度環境や振動に常にさらされますし、長時間の連続稼働が求められます。そういった中で精度をキープするには、耐久性と信頼性も非常に高いレベルで要求されます。当社では設計の段階で徹底的に検証。例えば高温の環境にずっと放置しておいたらどうなるか、高温と低温を繰り返した場合に壊れないかどうかなど、数多くの厳しい試験を実施して基準を満たすことを確認しています。

加藤:万一不具合が知らない間に発生した状態になっていると命に関わる可能性もある部品なので、センサにエラーや故障が発生するときちんとアラートが出る仕掛けも組み込み、システム全体の安全性を担保しています。

より高精度に、より小さく。
世界中の人々の「命」を守るために

――慣性力センサにおける「Small is Dynamic.」とは?

西村:これまでご紹介してきたセンサの高精度化のための努力は、すべて「小型化」と相反するものです。高精度を保ちつつ耐久性も高めようとすると、それなりの大きさになってしまう。実際、1950年ごろに登場した慣性力センサは、重量が50kgを超える大型の装置だったようです。しかし現在では、技術の進化によって当時と同程度の精度のセンサが指先に乗るほどのサイズに。これはものすごい技術の進化だと思います。

重量が50kgほどあったセンサが、現在は1cmほどのサイズに(写真左)。歴代センサと比較しても、右下の最新のセンサは非常に小さくなっている(写真右)。

加藤:自動車やドローンなどは部品のスペースに余裕があるのでは?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし自動車1台につきセンサが1個というわけではなく、ECU(電子制御ユニット)、エアバッグ、ヘッドライトなど各部位にそれぞれセンサが必要で、自動車の設計を変えることなく必要なスペースに必要なセンサを組み込んでいかなければならないため、小型化は不可欠なのです。センサの加工精度はミクロン単位であり、これは髪の毛の太さの0.08mmより桁1つ小さいんです。まさに「Small」を具現化していると思います。

一方で、慣性力センサは自動運転やドローンなど今後のモビリティ社会を安心・安全なものにするためには欠かせない重要な部品。人間では感知できないことをいち早く検知することで事故のない世の中を実現する根幹となるものです。一つひとつのセンサが世界中の人々の命や人生を守っているという点では、慣性力センサは社会全体へのインパクトが非常に大きい存在であり「Dynamic」だと言えるのではないでしょうか。

西村:小型化が進んだおかげで、現在ではスマートフォンやゲーム機などにも慣性力センサが使われるようになってきました。今後はそれだけにとどまらず、もっと活用の幅は広がっていくと思います。例えば人間の感覚を超える“第六感”のような役割を果たせる日が来るかもしれない。数値や言語に置き換えることが難しかった重力や空気の流れの微細な変化などをセンシングできるようになれば、人間が気づかない危険を察知できるようになるかもしれないですよね。小型化したセンサをウェアラブルデバイスに活用すれば、ストレスや緊張による体の変化を検知し、メンタルケアなどに活かせる可能性もある。小さな部品の中に詰まっている大きな可能性、それがまさに「Dynamic」だと私は感じています。