会社の成長にともない、社会に及ぼす影響も大きくなります。ムラタでも、ここ2~3年でガバナンスの進化や仕組みづくりについて積極的に見直しが進められてきました。
仕組みづくりの見直しのひとつがリスク対応の強化です。全社的なリスクに関して経営に近い視座で議論を行うなどリスク管理機能を強化するため、今年4月、リスク管理委員会の位置付けの見直しを行いました。具体的には、これまでCSR 統括委員会の下部組織であった当委員会を代表取締役直下の委員会として独立させ、委員も、従来の機能スタッフ部門の部門長から取締役および執行役員に変更しました。
以前より、委員会としても、リスクマネジメントという課題の大きさに対し、CSR統括委員会傘下としての活動だけでは広がりを持ちにくい、連携が取りづらいという問題意識を持っていたところへ、社外取締役の方々の後押しも加わり、この大きな動きへとつなげることができました。
こうして一定の進化が見られるなか、現在、我々が課題として認識しているのは、ムラタのリスクの許容度をどのように捉えるのかという点です。リスク許容度の把握なくして積極果敢なチャレンジはできません。新しい体制の委員会にて議論を深め、正しい開拓者精神を持ちながら、科学的アプローチでもって、ムラタのリスク許容度の判断基準を明確にしていくことを目指していきます。
2022年度から今年にかけて、指名諮問委員会・報酬諮問委員会での取り組みや議論も大変充実してきました。スキルマトリックスの定義や選択項目の見直し、報酬ガバナンスの強化などが各委員会の成果として挙げられますが、特に大きな変化であり有益であったのは両委員会の合同開催でした。
合同開催は、特に代表取締役社長の評価をそれぞれの委員会の観点から行う上で両委員会の役割分担の整理の必要性を感じ、連携のあり方を模索するなかで開催が実現したものになりますが、その成果には期待以上のものがありました。合同開催の場では、情報を交換し、共通項については認識を一致させ、多様な目線での意見を出し合って、議論する事柄の線引きや整理を行いました。合同開催での課題・論点を各委員会へ持ち帰って議論し、次の合同開催時に結論を持ち寄り集約するというプロセスを繰り返しました。ぜひこの連携を継続して議論をさらに充実させていきたいと考えています。特に、適切に代表取締役社長の評価を行い、報酬と選解任に結び付けるプロセスが構築できたので、それらを進化させることによってより一層の企業価値向上を目指すべく、議論を進めていきたいと考えています。その際には、社外取締役からの知見・経験にもとづいた助言も引き続き、多くいただければと思っています。
私が議長を務めている取締役会も変化をしてきました。私が取締役会で特に重視しているのは、個々の執行に寄りがちだった議論を、より戦略的・本質的なものにしていくということです。これについては、社外取締役への事前説明の充実に向けた取り組みが大変有効に働きました。事前説明は、重要な議案、あるいは特に社内外取締役の情報格差を埋める必要がある議案について、取締役会開催前に社外取締役を対象に議案内容等を説明する取り組みです。以前にも必要な案件については実施していましたが、2022年度より本格的に取り組みを開始し、回を重ねるごとに改善を行いました。事前説明の場で出された疑問点は整理されて取締役会で議論すべき論点が抽出され、取締役会での実質的・本質的な議論へと直結していきました。この事前説明は、社外取締役の案件内容についての理解を促進する機会になっただけでなく、ムラタという会社の考え方・動き方という面についても、解像度を上げる一助になったと思います。
最後に、私自身は、会長という立場から、取締役会あるいは経営会議においてどのような意識で取り組んでいるかについて申しあげると、俯瞰的な目線で論点を提供できるよう、視点の広さを持てるような提示をすることを心掛けています。そして、チャレンジ精神、開拓者精神といった「ムラタらしさ」を大切にできるような取締役会にしたいと考えています。
業務執行に責任を持つのは執行側であり、執行をモニタリングしていくのが取締役会です。取締役会は、取るべき適正なリスクが取れているかをモニタリングしていく。執行側は、モニタリングで担保されているので積極果敢に取るべきリスクを取って挑戦することができる。このようなモニタリング型の取締役会を志向していきたいと考えています。
経営やガバナンスのあり方にはゴールというものはありません。常に社会の変化を見ながら、社是に立ち返りながら、ときに臨機応変に舵を取り、持続的に成長していけるように努めてまいります。