Murata value report(統合報告書)

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AIがもたらす、かつてないエレクトロニクスの変革期を迎えて― 新たな産業構造の成長を支える Global No.1部品メーカーとして ― 代表取締役社長 中島規巨
AIがもたらす、かつてないエレクトロニクスの変革期を迎えて― 新たな産業構造の成長を支える Global No.1部品メーカーとして ― 代表取締役社長 中島規巨

※掲載している内容・役職は2026年9月29日時点のものです

AIがもたらす産業革命

世界は今、大きな転換点を迎えています。私は1985年に入社して以来、40年以上にわたりエレクトロニクス産業の発展を見てきました。1980年代にはビデオカメラをはじめとする電子機器の小型化が進み、2000年前後には、インターネットの普及と携帯電話の進化が新たな市場を切り拓きました。2015年前後には無線通信技術の進化とIoTの普及により、スマートフォンやPCをはじめ、あらゆる機器がインターネットにつながる状況が生まれ、さまざまなデバイスがつながる時代となりました。大きな技術革新は、15年ごとに起こっていて、そのたびに社会や産業構造が変化してきました。私はこれを「エレクトロニクスの波」と呼んでいます。

Innovator in Electronicsの波

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当社は技術革新の波を着実に捉え、進化を支える電子部品を提供することで成長してきました。次の波は2030年頃に訪れると考え、Vision2030のもとで準備を進めてきましたが、変化は私たちの想定を上回るスピードで現実のものとなりつつあります。変化の中心にあるのがAIです。私は、この変化を単なる技術革新ではなく、一種の産業革命と捉えています。これまでの市場の変化は、カメラや携帯電話、自動車など特定のアプリケーションを進化させるものでした。一方AIは、あらゆる産業に組み込まれ、社会インフラとして広く浸透していきます。その影響は、需要の急拡大にとどまらず、モノづくりや経営、お客様の事業活動、さらには社会全体にまで及ぶでしょう。AIの進化にともない、社会が求める価値は、「より多くの情報を、より速く、より安全に、より少ないエネルギーで処理すること」へと変化しています。その実現には、半導体だけではなく、通信、電源、センシング、高周波技術などを支える電子部品が不可欠です。これは電子部品メーカーにとって過去にない大きな成長機会です。
当社はこれまで培ってきた材料技術、生産技術、そして幅広い電子部品群を通じて、お客様が実現したい価値を支えるキーデバイスを提供し続けてまいります。

産業革命の起点となるインフラの構築

現在、AI変革を支える基盤であるAIデータセンターへの投資は世界中で急速に拡大しています。当初の想定を上回るスピードで需要が伸びており、今後も長期にわたる成長が続くと見ています。一方で、AIデータセンターの成長を支えるには、電子部品や半導体だけでなく、膨大な電力や資源、建設・運営を担う人材など、多様な社会基盤が必要であり、さまざまな産業が連携し、社会課題の解決と経済成長を両立させていくことが重要になります。
AIデータセンターの成長は始まりに過ぎません。インフラが整った先にはエッジデバイス、自動車やドローン、産業機器など、さまざまな分野でAI活用が進み、AIがフィジカル空間とサイバー空間をつなぐデジタルツインが実現し、人とデバイスとの関係も大きく変化します。さらに将来は、ヒューマノイドや宇宙産業など、新たな市場や価値創造の機会も広がっていくでしょう。
AIの普及にともない、当社の果たすべき役割はますます重要になっていきます。足元では、AIデータセンター向け需要の拡大を背景に、最先端コンデンサへの需要が大きく増加しています。そして、市場環境が大きく変化する時代には、将来を見据えた意思決定のスピードそのものが競争力になります。当社は、目先の需要だけではなく、その先の市場成長を見据えながら投資を進めています。2026年度には、計画に基づく能力増強投資に加え、コンデンサ事業へ800億円の緊急設備投資を意思決定しました。需要拡大は私たちの想定を上回るスピードで進んでいますが、これからも迅速な投資と供給体制の構築を通じて、お客様の期待に応え、市場の成長を支えてまいります。

AI変革期におけるムラタの価値創造

AIが社会基盤として広く活用されることで、AIデータセンターだけでなくエッジデバイス、自動車、ヒューマノイド、産業機器など、あらゆるアプリケーションが進化していきます。用途の広がりにともない、電子部品に求められる性能や役割も大きく変化していきます。
こうした変化は、お客様にとって新たな課題であると同時に、当社にとっては新たな価値を提供できる機会でもあります。例えばAIデータセンターでは、サーバーへ効率的に電力を供給するための電源モジュールや、データの安全性を支えるバックアップ用の電池への需要が高まっています。エッジデバイスでは、AIデータセンターと膨大なデータをリアルタイムでやり取りするため、次世代通信規格に対応した高周波デバイスや通信モジュールが重要となります。自動運転やヒューマノイドにおいても、周囲の状況を把握し、情報をやり取りするためのセンサや無線技術への期待が高まっています。さらに、AIデータセンターの省電力化を支える光通信や光電変換関連部品など、新たな市場も広がりつつあります。私たちは、この変化の中で、お客様に必要とされるキーデバイスを提供し続けることを目指しています。そのためには、製品だけでなく、当社も、AIを活用して進化していかなければなりません。
私は、AI変革期における企業の競争力は、「AIを持っているか」ではなく、「AIに何を学ばせ、どのように競争力に結び付けるか」によって決まると考えています。当社は、材料開発から生産プロセス・生産設備、モノづくり、販売までを一貫して担う垂直統合型のビジネスモデルを構築してきました。その過程で蓄積した、材料、生産、品質、販売に関する膨大な情報と知見は、他社には容易に模倣できない当社固有の重要な経営資源です。これらをAIによって最大限に活用して、顧客や市場、技術、モノづくりの変化をいち早く捉えることが、これからの成長につながります。そのためには、AIを単なる効率化の手段としてではなく、人の能力を最大限に引き出すツールとして活用することが重要です。私は以前から、AIは「時間を取り戻すツール」だと考えています。業務を効率化するだけでなく、人の意思決定を支え、創造的な仕事により多くの時間を振り向けることを可能にします。そして、その時間を当社の強みである材料技術やコア技術の深化に充てることこそが、AI変革期における競争優位につながると考えています。

一方で、AI変革期になっても、競争優位の源泉は変わりません。将来にわたりお客様に必要とされるキーデバイスを提供し続けるためには、材料技術や生産プロセスといった川上領域で差異化を続けることが不可欠です。AIによって得られた時間と知見を、独自の材料技術やコア技術の強化に振り向けることで、これからも新たな市場価値を提供し続けてまいります。

持続的成長を支える経営基盤

成長機会を確かな価値へと結び付けるためには、強固な経営基盤が不可欠です。世界のサプライチェーンを取り巻く環境は年々複雑さを増して、地政学リスクやエネルギー・資源問題への対応は企業経営における重要なテーマとなっています。
私は社長就任以来、サプライチェーンの複線化を重要な経営課題として取り組んできました。変化の大きい時代だからこそ、特定の地域や拠点に依存しない強靭な供給体制を構築し、お客様への安定供給を支えていきます。また、AIで広がる世界は大きな価値を生み出す一方で、膨大な電力や資源を必要とします。私たちは、お客様の省電力化に貢献する製品を提供するとともに、自らの事業活動においても環境負荷の低減を進めています。
RE100やカーボンニュートラルへの取り組みを前倒しで進めるほか、環境貢献製品の拡大や資源循環の推進にも取り組んでいます。環境への取り組みは、持続可能な社会の実現に向けた責任であると同時に、企業の競争力を高める重要な経営課題でもあります。
AIがもたらす変化は、一過性の需要ではなく、社会構造そのものを変える歴史的な転換です。だからこそ、私たちは変化を恐れるのではなく、成長の機会として捉え、自らも進化し続けなければなりません。当社は、独自の技術とモノづくりを通じて、お客様とともに新しい価値を創造し、AI変革期の社会を支えるGlobalNo.1部品メーカーとして、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
世界が大きく変化する中でも、当社は従業員、サプライヤー、お客様、地域社会、株主・投資家の皆様をはじめとする多くのステークホルダーの支えによって成り立っています。そうした皆様から信頼される企業であり続けることが、長期的な成長の基盤になると考えています。

【コラム】「ええ会社」とは

Q. 今年度、社内で「ええ会社」とは何か、そしてそれを実現するために何ができるのかを皆で考え、行動に移していくとおっしゃったと伺いました。なぜこの問いを従業員に投げかけられたのでしょうか?

answer

従業員一人ひとりに、「ムラタにとってのええ会社とは何か」を自ら考え、行動してほしいと思ったからです。「ええ会社」は、経営が一方的に形を決めるものではなく、従業員一人ひとりと会社がともに作り上げていくものだと考えています。私から「ええ会社とはこういう会社だ」と答えを示すのではなく、従業員一人ひとりが自分なりの答えを考え、行動する。そのきっかけにしてほしいという思いから、今期の社長方針の中であえて「ええ会社」という言葉を使い、この問いを投げかけました。
今、当社は次の成長にむけた大きな転換点にあります。だからこそ、組織や個人が主体的に考え、自ら行動することが重要です。また、これからの社会ではAIが担う部分がどんどん増えていきます。人が生み出す価値の源泉は、熱量・好奇心・妄想力や想像力・ひらめきにあるのだから、自らの意思で方向を定め、価値を創り出す自由を楽しんでほしい。そして、それらの積み重ねが、ムラタらしい自律分散型の経営につながり、変化の激しい時代においても持続的に成長できる企業になると信じています。

そのために、私はマネジメントの重要な役割のひとつとして、誰もが自らの職務に専念できる環境をつくることだと考えています。その基盤となるのが「圧倒的な透明性」です。変化の激しい時代だからこそ、経営の考え方や課題を率直に共有し、組織全体で共通認識を持ちながら前に進むことが重要です。そうした積み重ねが信頼関係を生み、持続的な成長につながると考えています。