時代を先取りした小型化・高性能化で、高い市場シェアを獲得し続けるムラタの「LQP」開発ストーリー

村田製作所(以下、ムラタ)の高周波回路用RFインダクタ「LQP」は、スマートフォンや自動車など様々な高周波回路に使用される小さな電子部品です。“独自の製品を供給する”というムラタならではの開拓者精神が、どのように製品開発の考えに活かされ、高い市場シェアを獲得するに至ったのか。当時開発を担当した長坂と問井へのインタビューを通じて紹介します。

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  • コンポーネント事業本部:長坂
  • コンポーネント事業本部:問井

独自のモノづくりで小型化、高性能化を追求したムラタに時代のニーズが追い付いた

ムラタのLQPはどのようにして生まれたのでしょうか。

長坂:
もともとムラタはインダクタを他社と同じように積層工法で作っていました。しかし、それでは他社との差別化が難しく、他社と同じことをするのはやめようと考えました。そこで、インダクタの小型化と性能向上を目指して、約25年前にフォトリソグラフィーという半導体にも使われる技術を応用して生み出されたのがムラタのLQPです。
回路基板上で通信の安定性を支える役割を持つ「インダクタ」には3つの作り方がありますが、このフォトリソグラフィー技術を応用した工法は、ムラタ独自のモノづくりといえます。この工法を使用することで品質のバラつきが極めて少なくなるうえ、性能を向上させたり、従来の積層工法との違いによってさらなる小型化・低背化も実現できたりします。
コアプロセステクノロジーとコイル製品への対応(例)
問井:
この製品を立ち上げた当初は、あまりニーズにマッチせず、売上は伸びませんでした。しかし、スマートフォン時代の到来により、小型で性能の高いインダクタが求められるようになりました。時代を先読みし、他社と差別化をして、小型化と性能向上を目指した独自のモノづくりの追求に、市場のニーズが追い付いた感覚でした。
長坂:
立ち上げた当初は、赤字なのでやめようという意見もありました。しかし、将来的に需要が追い付くことを先読みした経営判断が、開発を続ける後押しになりました。

現在LQPはどのようなところで活躍し、どれくらいの需要があるのでしょうか。

長坂:
スマートフォンや自動車の中の様々な高周波回路に採用されています。回路上で通信を安定させるために欠かせない電子部品です。
例えば、無線信号(Wi-FiやBluetooth®など)を送受信するRFモジュールは、高価格帯のスマートフォンに複数搭載されますが、世界の大手RFモジュールメーカーのトップ5社の製品に、ムラタのLQPは約80%のシェアで採用されています。
高価格帯のスマートフォンには1台あたり約10種類のRFモジュールが搭載されていて、1つのモジュールにつき約30個の高周波回路用インダクタが使われます。つまり、スマートフォン1台につき約300個のLQPが搭載されていることになります。
コンポーネント事業本部:長坂

フォトリソグラフィー技術を導入した25年前から様々なノウハウをすべて数値化してきたことは、ムラタの大きなアドバンテージ

RFモジュールメーカーの間の競争も激しいですよね。

長坂:
はい。各社が競争の中で独自性を出そうとしているので、お客様ごとにニーズが少しずつ異なります。そこで、ムラタではそれぞれのお客様と一緒に数年先を見据え、技術をすり合わせながらカスタム対応を行っています。具体的には、ニーズに対してインダクタの面積や高さなどをカスタマイズしています。
問井:
とはいえ、ほかに需要がないカスタム製品を少量生産するとコスト面での課題が生じます。そのため、価格と性能のバランスを取りながら、お客様の狙いとムラタの製品をしっかりすり合わせてマッチさせています。そうして、お客様独自の戦略に現実的に沿うことはもちろん、将来の市場の需要にも応えられるようなラインナップを目指しています。それにより、お客様の短期的なニーズに応えながら、ムラタの中長期的な技術戦略も築いていけるのです。

お客様とはどのくらい先のことを見据えて、戦略をすり合わせているのですか。

長坂:
ムラタは3~4年くらい先までの技術戦略のロードマップをお客様に提示しており、お客様のご要望によっては、技術開発を前倒しにすることもあります。ムラタ全体としては7~8年くらい先までのロードマップを考えているので、お客様のご要望に先回りして技術を提案することができるのです。それと同時に、さらに先のロードマップを描くことを繰り返しています。
問井:
ムラタの社是に「技術を練磨し」とあるように、みんなが技術を最高レベルにまで到達させようと常に挑戦し続けています。そんな情熱や企業風土がムラタの強みであり、LQPの強みにも昇華されていると思います。
長坂:
また、お客様が求めている製品の品質を維持し、それを安定して供給できていることもムラタの大きな特長です。フォトリソグラフィー技術は簡単なものではなく、高い技術力やノウハウの蓄積が必要です。それに加えて品質維持と安定供給も実現することで、より大きな価値を提供できるのです。

他社もフォトリソグラフィー技術を応用して同じようなことができるのでしょうか。

問井:
フォトリソグラフィー技術を保有している企業はほかにもありますが、ムラタはこの技術を高周波インダクタ用に練磨して技術的なノウハウを積んできました。ムラタでは25年前からフォトリソグラフィー技術の応用術を進化させ続けており、当初と比較して約2倍の性能向上に成功しています。特に部品の小型化と性能向上の両立は、ムラタが進化させてきた強みといえます。
また、ムラタでは材料から自社で製造しており、そのための環境や技術も他社ではなかなか真似できないと思います。さらに、材料の物理特性など、詳細なデータを生産現場にも共有し、性能のバラつきを是正することにも成功しています。フォトリソグラフィー技術を導入した25年前から様々なノウハウをすべて数値化してきたことは、ムラタの大きなアドバンテージですし、社是にもある「科学的管理を実践し」を今も積み重ねています。
コンポーネント事業本部:問井

開発した製品をパートナー企業や製造現場とすり合わせて、文化の発展に貢献する

2025年5月には、超小型0.25×0.125mmサイズのLQPの製品化を発表していましたが、開発はどのように進めているのでしょうか。

問井:
現在スマートフォンメーカーは、バッテリー容量を増やすために筐体内のスペースを必要としています。また、スマートフォン黎明期と現在を比べると、高機能化によりLQPの搭載数は2倍近くになっています。こうした技術の進化において、LQPの極小化は避けられない使命ともいえます。ムラタは時代とともに変化するお客様のニーズを先読みし、現在もさらなる小型化と同時に、理想の性能に近づけるための研究を行っています。
MLCCで成功したように、インダクタでも極小化を進めていきたいと考えています。
一方で、今はまだ極小サイズのインダクタを回路基板に実装するための装置がないことが課題です。これを解決するためには、実装機を製造する企業との連携が必要です。ムラタはインダクタを小型化するだけでなく、実装機メーカーから製品に関するご要望をうかがって改良を進めます。このような装置や部材を取り扱うパートナー企業と連携した研究開発は、社是の「会社の発展と協力者の共栄をはかり」に通ずる取り組みといえます。

そうした取り組みが、同業他社との差別化にもつながっているのですか。

問井:
製品開発における差別化につながっていると思います。ほかにも、同業他社との差別化において、開発した製品を安定供給できるかどうかも重要です。いまや生活必需品となったスマートフォンが、部品不足で出荷できないとなると、社会現象にまで発展する可能性もあります。それゆえ、ムラタのLQPは小型で性能が高いだけでなく、生産工程で様々なデータを連携し、安定的に生産できていることも大きな強みといえます。こうした部分も、ムラタの社是にある「独自の製品を供給して文化の発展に貢献し」に通じていると思います。
今後も文化の発展に貢献する価値を提供し続けていきたいと考えています。