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自己発電型で永遠に情報を送り続けるエネルギーとセンサネットワークがつながりを持ち始めた

Unused energy resources abound. Sunlight shining into buildings, human movement, vibration, and other such sources contain so little energy that they have been largely ignored. Engineers are now studying ways of using these small sources of energy for power generation. The implementation of micropower device and module technology is just around the corner.

藤本 克己/Katsumi Fujimoto
技術・事業開発本部
商品開発統括部
商品開発2部 部長

1981年入社。圧電フィルタ、発振子、アクチュエータの商品開発を経験。
1989年より圧電振動ジャイロの事業化に従事。金沢、富山で勤務。2006年デバイス事業開発本部に異動。2008年より現職。楽観主義的な柔軟思考と七転び八起きの粘り共存が理想の開発状態と信じる。
趣味は木工。自宅2階の部屋分割改造と内装は自力でやった。

環境・エネルギー分野に向けた取り組みを強化しているムラタ。
電力は、発電所のような大規模なプラントからだけではなく、オフィスや家庭、街中での忘れ去られているエネルギーを使うことでも得られる。
究極のエコを目指したエネルギーハーベスティングが現実味を帯びてきた。

永遠に情報を送り続けるマイクロエネルギーの世界

私たちの暮らしの中にあるマイクロエネルギーを使って発電、その電力でセンサネットワークを駆動させる。
例えば、室内に差し込む光、お湯と水の温度差、スイッチを押すときの圧力、車の振動など、ごく微小なエネルギーを使って100~500µW (マイクロワット: 10-6) の電力を起こし、センサを動かす。センシングした結果を通信で飛ばす。これが、電源や電池が不要で配線も不要、その装置だけで稼働するエネルギーハーベスティングだ。
オフィスや家庭内の必要な場所に、その装置を取り付けておけば、永遠に情報を送り続けてくれる。

人の動作で発電、動きを感知、最適な照明や空調を制御する

具体的な展開例としては、ドアを開けて人が入ってくる動きを利用して発電、照明のスイッチを入れる。中央ではどこのドアに入ったかという情報を収集し、室内での動きを観察し、空調なども、人のいる場所に重点的に行う。人が出ていけば照明や空調のスイッチを切る。こうしたデータをパソコンで集計し、クラウドで管理し制御する。この仕組みは、ヨーロッパで進んでおり、数多くのビルで導入されている。

日本ではまだエネルギー制御が「見える化」された程度で、本格導入までは至っていない。ムラタでは、戸田建設株式会社の本社ビルで、自己発電型の無線照明制御スイッチシステムを導入し、試験的に運用を開始した。無線を使用することで、無指向性の照明制御が可能となり、配線不要となったため工費もダウンした。今後のターゲットとして、ビルのリニューアル市場を考えている。

エネルギーは無限ではない、いかに少ない電力で動かせるか、エネルギーハーベスティングは究極のエコだと思う

部課の垣根を超えた交流、技術者間の連携で新規事業を創出

ムラタには組織を横断して新規事業を創出しようとする「MIRAI」という活動がある。世界で初めてといわれるものや、市場に出せば面白そうなもの、リアリティがあって、儲かりそうで夢があるものなど。そういうアイデアを実現させるために、部や課の垣根を超えて有志が集まりプロジェクトを立ち上げる。技術者にとっては、自らの技術の横展開はこれまで苦手な分野であったが、こうした活動を通じて交流を図ることで新たな事業を生み出す。

第1弾が、このエネルギーハーベスティングで、当初は8名ほどでスタート、月に2、3回のミーティングなどを経て、製品作りを行った。CEATEC JAPANなどの展示会にも出展し、市場の評価を得た。

ナノワットレベルの稼働を目指す、自己発電型のセンサネットワーク

センサネットワークは、もともとムラタが得意とする技術。自己発電型にすることで、設置場所を選ばず、メンテナンスフリーとなった。今はμWレベルの発電で感知と通信を行うが、世界的な最先端の研究はすでに次の段階に入っており、nW (ナノワット: 10-9) で稼働する仕組み作りへと移っている。実現のためには、nWで動くセンサや通信モジュールを開発しなければならず、もう一度、材料の選定や通信規格の見直しが進められるだろう。高い技術を要求されるので競合他社はあまりいないが、この概念を理解してもらうのに時間がかかった。

つまり、無駄な人造エネルギーは使わずに、無尽蔵に散在する最小のエネルギーで仕事を行う。従来は必要な機能を得るために、必要な電力を計算し、どのように供給するかを考えていた。エネルギーハーベスティングの概念は、まったく逆で、与えられた小さな電力で動かせる装置をいかに作るかということ。これが所与のエネルギーで生存と快適を両立させる究極の省エネの形だと思う。

科学技術の急速な発達により、人の五感にあたるセンサ技術、頭脳にあたるコンピュータ、神経にあたるネットワーク技術の高度化が進み、こうした生物のような仕組みが建築に導入されるようになった。建物自身が生きた人間のように機能するための研究 (生命化建築) も進んでいる。ムラタを含めた国内の企業50社近くが集まって、エネルギーハーベスティングのコンソーシアムも立ち上がった。マーケットは大きく熟してきている。5年後には100億円ほどの事業規模にすることを目指して、製品開発を進めている。

生命化建築

生き物でいう五感にあたる「センサ技術」、頭脳にあたる「小型コンピュータ」、そして神経にあたる「ネットワーク技術」の高度化が進み、生物本来の仕組みがITによって建築物へ導入されようとしている。建物自身が、建物の損傷や設計・施行時の不具合、修復の必要性を判断し、外部に知らせる。
大地震の場合は、建物自身が住民に避難を呼びかけることもできる。慶應義塾大学の三田彰教授が進めている研究テーマ。エネルギーハーベスティングとの関連が深い。

自己発電型無線照明制御スイッチ

人が押したスイッチの動きを電磁誘導で電力に変換し、無線通信で信号を送信。AC100V制御リレーを動作させることで照明器具の点灯・消灯を行う仕組み。
電池不要の無線照明制御システムを実現するもので、メンテナンスが容易で配線不要のために工費が削減できる。ビルオートメーションやリニューアルの市場でのニーズの高まりに呼応して製品化された。
戸田建設株式会社の本社ビルで、実用化に向けて試験運用を開始している。

Self-Powered Wireless Lighting Switching System