1975年東京生まれ。材料を専攻する理系の学生だったころ、田舎暮らしでクルマに目覚め、自動車のエンジニアになろうと思っていたが、先輩が大企業に就職して専攻以外の仕事に就いたのを知り、とにかくクルマだけにかかわりたいと「カーグラフィック」の編集記者に。2000年より輸入中古車専門誌「UCG」編集長として雑誌創刊を経験後、2003年「カーグラフィック」に復帰、2010年より同誌編集長。思惑通り、クルマざんまいの日々を送っている。
創刊50周年を迎えた自動車専門の月刊誌「カーグラフィック」。新車の紹介だけではなく、厳正中立なクルマ評論と批評、海外取材に基づく情報をベースに、美しい写真で誌面を飾るというのが編集方針。この日本を代表する自動車雑誌は、クルマのエレクトロニクス化をどうとらえているのでしょうか、田中誠司編集長にお話を伺いました。
エレクトロニクス化は1980年代後半から
クルマがエレクトロニクスの恩恵を受けはじめたのは、1980年ごろ、ブレーキを踏んだ時の車輪のロックを回避するABS (Antilock Brake System)
導入あたりから。その後、アクセルを踏んでもタイヤが路面をつかんでいなければ加速しないTCS (Traction Control System) が登場。クルマが曲がるときの姿勢を安定させる横滑り防止装置ESC
(Electronic Stability Control)
は、欧米で普及が進み、日本でも2010年12月には、装着が義務化されました。こうして1980年代の後半から、市販されているクルマにもエレクトロニクスによる制御が浸透してきました。
マイコン統合が進み集中制御へ
クルマの機能を個々に制御していると、すべてにCPUが必要となります。一時期は数十個もマイコンが搭載されていたこともあり、コスト低減や配線の省略化、部品点数の削減などを求めて統合化が図られました。こうした統合化の進展によって、システムレベルの安全性が部品に要求され、それが実現できたからこそエレクトロニクス化が進みました。今は、カーナビの画面からエアコンがコントロールでき、クルマの足回りの制御も可能。ネットワークの技術によって、ドライバーはセンターコンソールの画面を見れば、クルマがどういう状態で、どういう動きをしようとしているのかが判断できます。21世紀に入ったころには、コンセプトカーの技術だったものが、信頼性を向上させ、安全を確保して一般車にも導入されています。
サプライヤー技術の向上と横の広がり
自動車メーカーもしかりですが、エレクトロニクス化はティア1やティア2などの部品サプライヤーの貢献が大きい。例えば、危険を察知して自動ブレーキをかけるシステムは、あるメーカーが採用すると後を追って他のメーカーにもまたたく間に広がります。サプライヤーがその技術を確立し供給しているからで、技術の横の広がりが早い。そうなると、同じようなクルマが増えると考えられがちですが、そうはならない。自動車メーカーにもこだわりがあるからです。デザインやブランド、走りやスポーティ感といったイメージ戦略、それに開発者のこだわりも出てきます。
「走り」の楽しみは安全デバイスのおかげ
クルマの「走り」の楽しみの一つはパワーですが、昔では考えられないような馬力のクルマに乗れるようになりました。かつて日本自動車工業会は、安全のためにエンジンの最高出力を280馬力として自主規制していましたが、今は300馬力や500馬力以上のクルマでも乗ることができます。その背景には、安全デバイスの発達があります。パワーがあっても最終的には安全が担保されているからこそ、今のような走りが可能になったのだと思います。例えば、タイヤが滑ってもぎりぎりまで許してくれるクルマと、滑りそうならすぐに止めてしまうクルマ。滑りはじめたタイヤを止めるのは簡単ですが、それでは楽しくない。滑っている状態でアクセルもハンドルも操作できるほうが楽しい。これは、ぎりぎりの技術ですね。研究には手間がかかり、滑りはじめたタイヤを止めるより何倍も難しいけれども、走りにこだわるメーカーはぎりぎりの技術を持っています。同じメーカーでも車種によって違います。こういうテイストの違いには、やはり、担当開発者のこだわりのようなものを感じます。
クルマの未来、自動運転はどこまで進む
今後のポイントは、自動運転がどこまで進むかです。理論的には確立されているといわれていますが、まだ信頼性の確保ができない。現状では、責任はドライバーが持つのが常識ですが、それは自動運転という概念がなかったから。これからは、例えば保険の考え方など、社会のシステムや人々の観点も変えなければならない。はたして自動運転で安全になるのかという議論も生まれます。ただ、いえるのは、エレクトロニクスの導入なしには、ここまでのクルマの進歩はなかったということ。走りの魅力にしても、安全性の確保にしても、エレクトロニクスがクルマの未来を大きく支えていくのは間違いないでしょう。