FRONT Line

飛躍的な発展を遂げる通信技術の世界 新しいマーケット、新しいテクノロジー、新しいソリューション ムラタの通信とセンサがこれからの社会を変えていく

中島 規巨/Norio Nakajima
取締役常務執行役員 通信・センサ事業本部 本部長

1985年入社。
2004年7月第3コンポーネント事業部多層モジュール商品部長、
2006年7月モジュール事業本部通信モジュール商品事業部長、
2010年7月執行役員、
2012年6月モジュール事業本部長 (現 通信事業本部長) 。株式会社小松村田製作所、株式会社金沢村田製作所、株式会社岡山村田製作所の各社代表取締役社長。
2013年6月取締役、常務執行役員。

さまざまなものを感じ取り、その情報をフィードバックするセンサ。
集めた情報を、ネットワークを通じて離れた場所へ届ける通信技術。
いずれもムラタが長年培ってきたテクノロジーであり、注力している分野だ。
2020年頃の普及が見込まれる5Gは、現行の100倍の通信速度でICT社会の扉を開く。
モノとモノがインターネットでつながるIoTの社会が実現すれば、部品ニーズは急増する。
工場などでは、生産・供給システムを自動化する“第4の産業革命”が起こるとされる。
飛躍的な発展を遂げる通信技術は、社会環境を一変させる可能性を秘めている。
そうした中、ムラタは従来の概念を超える画期的なフィルタを開発。
部品供給を通じた社会貢献で新しい文化を築く。通信とセンサをコアにしたイノベーションが始まる。

5Gでは現行の100倍にあたる10Gbpsの通信速度に
ICT社会は進化し、モノがインターネットにつながるIoTが急速に普及
社会の隅々に設置されるセンサのデータを、瞬時に処理する技術が求められている

アナログからデジタルの時代へ、部品の小型化が一気に進む

ムラタが通信に携わるのは、1980年代のこと。家庭内にコードレス電話が登場し、自動車に電話が搭載され始めた頃で、「モバイル」という概念はなかった。90年代に入り、欧米などではアナログ携帯電話の時代に入る。日本ではNTTが大容量方式「アナログムーバ」を確立し、いわゆる第1世代 (1G) 移動体通信の時代が到来する。当時のアナログは仕様も煩雑で、大きな部品が必要であり、十分に小型化ができなかった。

90年代半ばになると、デジタル化された第2世代 (2G) 移動体通信の時代に入る。このデジタル化をきっかけに、部品の小型化が一気に進む。市場へはNTTドコモや第二電電、日本移動通信のほかにも、デジタルホンやツーカーなどが参入。端末機の供給に家電メーカーなどが加わり、競争が激しさを増して、携帯電話が広く一般に普及する下地が作られた。さらに簡単に携帯電話が使えるようにと、簡易型携帯電話サービス「PHS」が始まり、端末や通話料の安さもあって、若年層を中心に普及し始めた。こうして、80年代から始まった、人と人とをポイントでつなぐ通信技術が進化していった。

デジタル化と同時に、データ通信の時代へ

通信技術はデジタル化の進展とともに、通信の容量を大きくする動きも加速、データも同時に送れる技術が開発されていった。2000年に入ると、日本では世界初の第3世代 (3G) 移動体通信・W-CDMA (Wideband Code Division Multiple Access) の時代を迎える。3Gの携帯電話では、テレビ電話の機能が加わったほか、PCと接続して、高速なデータ通信が行えるようになった。インターネットの利用も、限られたサービスから、PCと同じポータルサイトでWEB検索や画像検索、ブログや電子掲示板へのコメント投稿もできるようになった。

2010年になると、4G (LTE: Long Term Evolution) への移行が始まり、現在のスマートフォン (スマホ) 隆盛の時代を迎える。2020年には東京五輪を契機に、もう一歩進んだ5Gになる見通しだ。情報通信はどんどん活発化し、トラフィック (通信量) は、過去5年で10倍になり、今後5年でさらに10倍、2020年までには1000倍になるといわれている。

2020年には5Gの時代へ、IoTの世界がやってくる

5Gは通信速度で現行の100倍にあたる10Gbpsの通信速度を目指す。スマホなどの移動体に、高精細な映像や大容量の情報を超高速で伝送できる。重要なポイントは、ICT (Information and Communication Technology) 社会が進化して、モノがインターネットにつながるIoT (Internet of Things) が急速に普及すること。自動車や鉄道、ロボット、工場の生産設備、社会の隅々に設置されるセンサなどの情報を、瞬時に遅延なく処理する技術が求められている。

送られるデータのコンテンツはそれぞれ異なり、人が作る場合も、自動で作られる場合もある。ムラタの役割は、人と人、モノとモノとの接続の信頼性を高めたり、速度を高めたりするインフラの整備。5Gの世界では、通信自体がインフラになる。

通信がインフラになると、人が意識することなく、自動的につながっている状態となる。例えば、第4の産業革命といわれる「インダストリ4.0」では、インテリジェント監視システムや自律システムの開発を進め、インターネットにより工場内外のIoTが実現することで、設備の不具合を未然に防止する。新しい価値とビジネスモデルの実現を目指す試みだが、このインダストリ4.0において、クラウドにデータをアップし、遠隔で操作している時、誰も通信を意識していない。こうした無意識のうちに成り立っているのがIoTの世界だ。

高性能で信頼性の高いモノづくり、部品の需要はまだまだ伸びる

通信の信頼性を高めるには、例えばアンテナで受信した電波 (アナログ信号) をデジタルに変換して活用するRF (高周波) の技術が必要だ。ムラタの強みは、その経路にかかわるすべての製品を用意できること。高周波の設計や計測ができ、いわゆる設計からモノづくりまで、信頼性の高い製品を提供することができる。その際、単体での高性能化は当然必要だが、モジュール化やソフトとの組み合わせも必要になってくる。今後、通信とセンサは一体で考えなければならない。センシングするだけでは意味がなく、その情報を、通信を使ってどこかに伝え、蓄え、活用できるように加工することで付加価値が生まれる。

今は、部品メーカーの成長に向けて良い時代だと思う。世界市場でスマホは数量的に成熟しているが、5Gのように機能が高まるごとに部品の員数は拡大していく。上位互換 (機能や性能で上位に位置する製品が、下位の製品と互換性をもつこと) によっても、さらに積み上がっていく。高性能で、高信頼性の製品を大量に生産し、タイムリーに供給するのは、まさにムラタが得意とすることだ。

製品のイノベーション、技術のイノベーション、そしてビジネスのイノベーション
これからはアイデアが重視される
新たなチャレンジには、従来とは違う、理系以外の発想、日本人以外の発想も必要

IoTが実現する社会とは、500億台がつながる世界

5GやIoTが推進されていくと、どういう世の中になるのか。医療であれば在宅医療、車なら自動運転、工場ならインダストリ4.0。家庭ではソーラーパネルで作った電力を充電し、効率よく配電させる。どこでどれだけの電力を消費しているのか、電流情報、電力情報を分析することで省エネが実現、ゼロエミッションも可能となる。ある試算によれば、2020年のインターネットおよびクラウド接続デバイス数は500億台を超える。

中島 規巨

今後の市場のイメージはできており、その市場規模も想定されている。500億台すべてにムラタの製品を組み込むことを目標に、一つは従来と同様の「軽薄短小」という取り組みを行う。電子部品の多くは、大きなマザー基板から切り出しているため、一つの部品を小さくすることが低コストにつながる。IoTのすべてに軽薄短小が必要だとはいわないが、スマホなどはまだまだ軽薄短小化に価値がある。

さらに、ソフトウェアに力を注ぐ。すべてのモノに通信機能が加われば、どのような業界がユーザーになるかわからない。建築、医療、流通など、従来では考えられなかったようなユーザーからの引き合いもきている。そうしたところでは、通信とセンサを使って何ができるのか、より具体的なソリューション提供が必要となる。ユーザーインターフェイスとか、使い方も付加価値にしていくために、もう一歩踏み込んでサポートする必要があると考えている。

従来とは異なる発想で、すべてにイノベーションを起こす

2015年7月にはIoTの事業推進部を設けた。ムラタにとって新しい業態の顧客のもとを訪れ、これまでの事業部では、やっていなかったような取り組みを行っている。製品のイノベーション、技術のイノベーション、そしてビジネスのイノベーション。これからはアイデアが重視される。従来とは異なる発想、理系以外の発想、日本人以外の発想が必要で、そうした中に意外な発見があるだろう。

通信に不可欠な高周波フィルタでは、技術のイノベーションを実現させている。通過周波数帯域を変えられる「チューナブルフィルタ」がそれだ。今までそれぞれの周波数帯域で必要だったフィルタを一つにまとめられる。その結果、売れるフィルタの数が減り、サプライヤーとしては一見マイナスのことのように思えるが、接続デバイス数が500億台を超える時代となれば、フィルタは今のサプライヤーだけでは確実に供給不足となる。近視眼的ではなく、来たる未来を見越して最先端技術を活用した製品を提供していく、という考え方だ。

必要な信号だけを取り出す主要部品「SAW (Surface Acoustic Wave) フィルタ」でもイノベーションを起こした。ウエハーのレイヤー構造を大きく変えて従来の概念を覆したフィルタを生産ラインに乗せた。その結果、従来のSAWフィルタでは不可能だった周波数帯域への対応が可能となった。フィルタの歴史の中では革新的なことだと思う。これはI.H.P. (Incredible high performance) SAWとネーミングした。

これまではハードの提供だけでよかったが、
これからはソフトの提供も必要
通信とセンサはますます一体化する
センシングするだけでは意味がなく、その情報を、
通信を使ってどこかに伝え、蓄え、加工することで付加価値が生まれる

技術、市場、顧客が変わる中、独自の技術で社会に貢献する

通信がインフラになると、さらにこうした新しい製品が出てくる可能性が広がる。技術のトレンドとしては、通信できる情報量が増えたり、高周波化が進むことがあげられ、技術的な難易度は上がる。日本の電子部品メーカーの出番だが、すべてを1社で支えていくのは難しいので、協業やM&Aが活発になると思う。その中で、どうやって独自性を出していくのか。市場が変わり、顧客や流通ルートも変わってくる中で、自らアプリケーションを作ったり、データの集計と加工なども手がけたりするようになるかもしれない。そういうソフト面を強化しないといけない状況になっている。

これからの通信技術は、自動運転や在宅医療、ゼロエミッションなどの実現にも必要不可欠となる。これらにおいてムラタは大きく貢献できるのではないか、ムラタの社是にもあるように「独自の製品を供給して、文化の発展に貢献」できるのではないかと思っている。そのためには、ムラタの技術は他とは何が違って、何ができるのか、違いを明確にしていくこと。この軸がぶれないことが大切だろう。

IoTと市場

「いつでも、どこでも、何でも、誰でも」ネットワークにつながるユビキタスネットワーク社会が2000年代前半から構想されてきた。そして今、PCやスマホ、タブレットといった従来型のICT端末だけでなく、自動車、家電、ロボット、施設などあらゆるモノがインターネットにつながり、情報のやりとりをすることで、モノのデータ化やそれに基づく自動化などが進展し、新たな付加価値が生み出されようとしている。さまざまなモノがセンサーと無線通信を介してインターネットの一部を構成することから、ユビキタスネットワークの構築は、「IoT」 (Internet of Things: モノのインターネット) というキーワードで表現されるようになっている。

IoTと市場

IoT時代の到来を示す動向として、インターネットにつながるモノの数の爆発的な増加があげられる。2013年時点でインターネットにつながるモノの数は約158億個であり、2020年までに約530億個まで増大するとされている (IHS社推計) 。成長率でみると、自動車や産業の分野でのIoTが注目されている。現在、世界に存在する1.5兆個のモノのうち、99.4%はインターネットに接続されておらず (Cisco社) 、これらが今後接続されることが想定される。この数字からも、IoTの潜在的な価値の大きさがうかがえる。

IoTとコスト

IoTの到来とともに注目されるのが、各種コストの低減化につながる技術革新の進展だ。例えば、データを収集するための通信機器やセンサはコモディティ化が進んでおり、十分な機能をもつ小さなデバイスを安価に実現できるようになってきている。また、これらのデバイスとネットワークを接続するためのインタフェースなどの通信規格の標準化やセンサネットワークに適した接続の安定化や低消費電力化などの技術改善も重要な要素である。エネルギー分野における規格としては、2012年にスマートメーター実現のために策定されたWi-SUN®があげられる。IoTの導入が想定されている分野で、こうした新しい規格の採用も進み、急速に利用が普及することが想定される。

IoTとコスト

さらに、高度に発達したワイヤレスネットワークやクラウド型サービスも、コスト低減とIoTの実現を加速させている。センサから分散したデータを収集し、分析・アクションまでの機能、いわゆるビッグデータ解析につなげるための統合・管理において、クラウドなどのプラットフォームが重要な役割を果たしている。今後、IPv4からIPv6への移行によるアドレス空間やインターネット資源の拡張もIoTを実現する重要な基盤となる。

こうした利用環境に加えて、IoT市場によるエコシステムの形成やそれに伴う事業者参入も、供給側・需要側のコスト低減につながる。すでに、スマホ・PC・タブレット向けを中心としたインターネットのアプリケーションは多量に存在するが、風速、湿度、温度、照度などの多種多様なセンサや機能を加えることでアプリケーションサービスの幅が一気に広がると予想される。このように、IoTの実現を通じて、モノが収集、蓄積した膨大なデータを活用することによる新たなビジネスの広がりは、ますます注目を浴びることになる。さらに、モノづくりを自分、または他人と共同でオンラインで行う、「メイカームーブメント」もこうした流れの追い風になっている。

(総務省 平成27年版情報通信白書より)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc254110.html