Leader Talk

水晶の専門家集団がムラタに参画セラミックスで培った技術とのシナジーでさらなる革新的製品を生み出す

タイミングデバイス座談会

写真左から、
光野 卓也、高見 和憲、開田 弘明、
水野 利弘、堀井 勇、岡崎 進、吉田 和美

あらゆる電子回路が、同期をとって働くためには、基準となる信号が必要である。あたかもオーケストラの指揮者のように、一定の間隔で安定した指示を供給するタイミングデバイス。ムラタに新しく加わった水晶の専門家集団と、従来のセラミックスとの技術の融合が、チームを組んで動き始めたとき、新しいトレンドが誕生した。電子回路のチームワークをつかさどるタイミングデバイス、その新しい製品は、オールムラタのチームワークから生まれた。

セラミックスから水晶へ、原石製造が新たな基盤を生む

水野  タイミングデバイスは、非常に重要な役割をもった製品。今までムラタはセラミックスによる発振子「セラロック®」を製品化していましたが、昨年、東京電波という水晶デバイスに関する優秀な製品と技術をもつ会社を子会社化しました。すでに、製品ラインアップの充実が図られ、水晶デバイスの開発、生産、販売の強化に努めているところです。今、ムラタのタイミングデバイス事業は大きく変わろうとしています。ここでは水晶の製造から、開発・生産・企画販推にかかわる皆さんに集まっていただいたので、今後ムラタがどう取り組んでいくのか語り合っていきたいと思います。まずは、水晶デバイスの原石担当から。

吉田  群馬工場で人工水晶を作っています。天然水晶を輸入して、これを全長15m、内径60cmの圧力容器に入れ、アルカリ溶液を入れて約1,500気圧をかけます。すると、1日あたり0.5mmほど成長していきます。気圧をキープして通電して、3カ月ほどすると、約2トンの人工水晶ができあがります。他のムラタのモノづくりと違って、息の長い工程です。極端なときは全滅という憂き目もあり得ます。1日の成長速度を早くすればコストダウンになりますが、水晶の結晶の緻密さ、品質に問題が出てきます。今後はすべてを同じ方法で作るのではなく、作る振動子の性能によって、原石の質を変えられるよう試行錯誤しているところです。おかげさまで原石の評価は高く、「東京電波のものは質がよい」といわれています。結晶は日々積み上げて育成していくのですが、時に結晶構造がずれることがあります。いわゆる欠陥、不良なのですが、ミクロの世界なので目には見えません。成長した水晶の断面を細かく調べてわかる程度です。水晶の結晶構造は“遺伝”するといわれています。だから、シードという水晶育成の種の選別に固有技術があるのです。また、欠陥が増えないような育成方法、例えば育成のときに熱をかけて400度くらいにまで昇温しますが、230~280度くらいで超臨界になります。この状態で成長してしまうとよい結晶にならないと見ています。うまく成長させる仕組みと成長のコントロール、そんなところに長年のノウハウがあるわけです。

約80日の成長期間を終了し、オートクレーブから引上げられたタイミングデバイス用途の水晶原石

小型化への挑戦、量産への課題を克服

水野 確かに純度が高くて質がよいとの評判です。ここが他社にはない特長で、水晶を自由に操れるということは、自社の製品の完成度が高まるということに他ならない。東京電波との合体によって得たこのメリットを、もっと突き詰めたいという思いはありますね。この原石を使った次の工程は、ブランク (水晶圧電材料) ということになります。

光野  水晶振動子にはいろいろな振動モードが存在するので、それぞれの周波数や電気的性能によって、水晶ブランクは使い分けられています。2016 (2.0mm×1.6mm) サイズや1612 (1.6mm×1.2mm) サイズの小型水晶振動子は、東京電波が業界で初めて量産にこぎつけた製品です。その知見やノウハウを引継ぎ、ムラタはより特性と生産性の優れたものに改良しています。当たり前ですが、振動子は素材である水晶原石の質が重要です。その点、優れた原石を保有しているムラタは有利だと思います。しかし、原石の品質だけではなく、原石のカット角や振動子形状の設計も重要となります。これがうまくいっていないと、発振周波数の温度特性が悪くなったり不安定になるという不具合が起こってしまいます。小型になるほど設計の難易度が上がりますので、適正な設計を見出すことと、それを加工する製造プロセスの条件設定、そしてその管理が重要となります。ムラタの場合は、デバイス設計のシミュレーション技術が進んでいて、振動子設計をロジカルに進めようとする土壌があります。水晶振動子のシミュレーションは難しい部分も多いのですが、シミュレーションの改良やそれを使った設計方法の構築を進めており、スピーディに適正な水晶振動子設計ができるようになってきました。これが性能や品質の安定化につながっています。水晶振動子の製造では、まだまだわかっていないことが多く、実際に量産するとなると、初期とは違う特性が出てきたりします。今後の課題は、いかに小型化し、性能を高め、生産の精度をあげていくか、ということですね。

シミュレーション技術による科学的管理、それがすばらしい製品を生み出しています。

光野 卓也 シニアエンジニア
株式会社富山村田製作所
タイミングデバイス事業部
商品開発部 商品開発2課

1994年東京電波入社。2016/1612サイズをはじめとする各種水晶振動子の開発・設計に従事。
趣味は登山と読書。

得意の製品パッケージ技術、革新的HCR®の誕生

水野 水晶への取り組みは初めてですが、ムラタが従来からやってきた生産技術や生産管理がうまくかみあえば、新しいモノづくりができるだろうと思います。ムラタは、製品パッケージが得意で、セラロック®で積み上げた実績もありますね。

岡崎 はい。セラロック®の優れた技術の一つとしてはパッケージ技術がありますね。それを水晶振動子に適用したものがHCR®です。2009年に商品化した、水晶振動子として第一号の商品です。性能・品質・コストに有利と考え、セラロック® で実績のある「Cap Chip構造」をとることにしたわけですが、封止材についてはこの第一号商品は樹脂封止としました。したがって、いっそうコストパフォーマンスの高いものになりました。通常、水晶振動子は気密封止をとります。水晶業界から見ると、非気密である樹脂封止は掟破りの構造だったと思います。私たち自身ももちろん大きな懸念をもっていたので、特性や品質に問題がないか、数々の検討を行い設計を完成させました。現在では、ムラタ水晶振動子における主役となっており売り上げを伸ばしています。ある意味、常識にとらわれないムラタだからこそできた商品だと思います。このHCR®立ち上げ後、気密品・非気密品ともにCap Chip構造をベースとして開発を進めています。商品開発を進める上で、いつも大きな課題になるのは封止材やパッケージ材料などの材料技術ですね。こういうとき、ムラタの中にある各種材料のノウハウや知見、これらの豊富さに勇気づけられ安心させられます。セラロック®開発と同様、材料技術者と密接に協力して商品開発を行っています。

水晶をムラタのパッケージ技術で製品化、Cap Chip構造によるHCR®の実現は革新的でした。

水野 利弘 部長
株式会社村田製作所
タイミングデバイス事業部 企画販推部

1989年入社。センサの開発、圧電商品の商品技術に携わった後に、シンガポールと上海に赴任、帰国後はアクチュエータ、タイミングデバイスの企画を担当。
趣味はゴルフ、旅行。

高品質化と量産化の両立、原点は生産システムの確立

水野 設備や生産の面でも、いろいろな課題を克服されたのでしょうね。

高見 モノづくりの3要素は、ゴールデントライアングルといわれていて、(1)製品設計 (2)材料 (3)プロセス設計を含めた生産設備、です。この3要素を満たすために、プロセスに基づいて、ラインレイアウトを考えたり、作業しやすいような作業設計を検討したり。損益に直結するところなので、原価管理やコストシミュレーションを考慮して生産システムを開発していかなければなりません。製品の高品質化と量産性の確保はトレードオフの関係となる側面があるのですが、製品品位を満足させながら、量産のモノづくりをしないといけない。気密封止工程も難しいのですが、その前工程でも処理状況を変えるだけで特性が変わるとか、品質を左右する要素がいろいろあります。ある意味、やりがいのあることで、そこからプロセスの真髄が見えてきたり、これまで経験に頼っていた暗黙知が解明されたりするのではないかと期待しています。新しいものを作るときに悩ましいのは、常に品質との戦い、コストとの戦い、時間との戦い、ということですね。量産化した小型品は、スマートフォンや携帯電話にも使われ始めるなど、新たな需要を創造しています。開発した製品が広く市場で受け入れられると、タイトなスケジュールも楽しく思えてきたりします。

モノづくりの3要素はゴールデントライアングル、量産化を実現した製品が、新たな需要を創造しています。

高見 和憲 シニアマネージャー
株式会社富山村田製作所
生産技術部 生産技術1課

1987年入社。発振子、誘電体フィルタ、センサ商品の生産技術、実装プロセス開発に従事。
2012年よりタイミングデバイスの生産技術を担当。
趣味はパワースポットめぐり。

オリジナルの追求、水晶に生かされたセラロック®

水野  設備開発、工法開発というと、モノづくりの現場と共に、人に優しいライン作り、保全力の強化を考えるなど、現場とのつながりがあるセクションです。Cap Chip構造では、平板に金属キャップを組み合わせてパッケージングするというのが一番のキー技術で、苦労して製品化にこぎつけました。水晶振動子でいえば、従来の業界では市販の生産設備や材料が常識でしたが、材料からパッケージ構造までムラタオリジナルで、それに合わせて生産プロセスもオリジナルなものを作っている。そのためにムラタではいろんな機能から人が集まってくる。チームワークがそのコアになっているんですね。一方、ソフト面での技術サービスや回路アプリケーションの面からはどうですか。

堀井  タイミングデバイスは、ICを動作させるときにいろいろな回路との同期を図る部品。それぞれのメーカーで、ICの特性が違うので、どのように合わせるか、同期がうまくいくのかという検証をやっています。セラミック発振子に比べて、水晶振動子で求められる測定精度はひときわ高いことに苦労しました。より正確に測って顧客に報告しなければならず、その一方で顧客から借りている基板にダメージを与えてもいけないので、いろんな面で気をつかいます。また、すべての顧客から基板を貸し出してもらえるわけではなく、直接顧客のところに行って評価するというサービスもあります。国内にとどまらず、海外顧客のところへ行くサービスも始めていますよ。セラミック発振子の場合は、ムラタは高いシェアを保っていますが、水晶デバイスではまだ新参者です。顧客に合わせたサービスを展開するなど、満足していただけるように努めています。

セラミックスと水晶、そして新たな技術も含めて、ソリューションがそろっているのはムラタだけ。

堀井 勇 マネージャー
株式会社富山村田製作所
タイミングデバイス事業部
企画販推部 商品技術5課

1990年入社。以来一貫して商品技術に従事。
趣味はマラソン。2014年100kmマラソンを完走、
2015年の東京マラソンは3時間40分で自己ベストを更新。

常識はずれの革新、チームワークのパワー

開田  ムラタは過去からセラミック発振子セラロック®を開発し生産してきました。このセラミック発振子分野では躍進し、今でも高いシェアを維持しています。セラミック発振子は、発振させやすいという性能上の特長を有し、ムラタはこれにさまざまな技術アイデアを盛り込み、いっそう高性能に、そして小型・低コストにしてきました。それで市場に広く受け入れられてきたのですが、高精度化が困難であることが欠点でした。水晶の周波数精度はふつう20ppmなのに対し、セラミック発振子はおよそ10,000ppmです。高精度化の要求に応えるために、この欠点をさまざまな工夫で克服し、3000ppmを開発し、2000年初頭には500ppmも目指すようになっていました。当時すでに水晶を使おうという案もありましたが、セラミックスで極めることを方針としていました。予想どおり、500ppmセラロック®の開発は非常に困難なものとなりました。しかし何とか商品化には至りました。これは、関連部門一体で挑んだチームワークの賜物ですね。しかし同時に、精度におけるセラミック発振子の限界も関係者全員が深く理解することになった件とも言えます。結果的には、この一件が水晶を使うことの決断を導くことになりました。今から思えば、この理解から来る切迫感と協力し合う精神とがあいまって、このあとムラタのみんなの気持ちが水晶振動子開発にいっきに向けられることになった感じです。高精度化についてムラタには後がなかった。これにかけるしかないという意気込み。東京電波の人も非常に協力的でした。こうして、水晶振動子HCR®ができあがりました。HCR®は水晶業界において脅威と思われているようですが、その成功のカギとして、樹脂封止パッケージという技術的な発想やバックボーンもさることながら、抜群なチームワーク関係を自然に形成してしまう風土、そういう点もあるのだと思います。今後、これに続く第2、第3の開発プロジェクトを進める中で、さらなる困難にぶつかるかもしれませんが、この例と同様、強いチームワーク力で乗りきっていきたいと思います。

数ppmの高精度化に向けて水晶へ、という決断。チームワークで乗り切った感があります。

開田 弘明 シニアマネージャー
株式会社村田製作所
タイミングデバイス事業部 商品開発部

1987年入社。ほぼ一貫して圧電体応用商品、
特に圧電セラミック共振子や水晶タイミングデバイスの開発に従事。
趣味は太極拳。

全社あげての取り組み、課題共有でロケット立ち上げ

水野 まず樹脂封止の非気密のHCR®を作って、さらに気密封止のものを出した。この背景にあるのが、チームワークなのでしょうか。

岡崎 気密封止でいうと、かつてない早さで製品を立ち上げることができました。製造部門にも、開発段階から入ってもらった。設計から設備の問題を共有して、初めからいっしょに解決するという体制で臨んだところがよかったのではないでしょうか。それが垂直立ち上げ、ロケット立ち上げにつながったと思います。こうした新しい技術を確立するのは時間との戦いでもあります。時間が刻々と過ぎる中、タイミングをはずすことなく、いかに納期に合わせるか。そうした状況の下、東京電波とムラタ、お互いの製造開発部門が同じ想いで取り組めたことは大きな財産になると思います。開発段階では、両社はまだ合併前の取引先関係ですから、お互いどんな技術を持って、何を知っているか、ちょっと遠慮し合う場面もあって。それが同じ製品を開発していく中で、同じ悩みを共有し、問題を解決していっしょに笑うようになる。こうして苦労をともにするうちにだんだんと関係が強化されてきた、というのが実感としてありますね。これは技術ではなく、メンタルな部分ですが、非常に重要だと思っています。なお、ここであえて苦言を呈すると、東京電波が作る原石をムラタはまだ使いこなせていないと思います。今後、原石の加工技術、設計力を磨かないと、他社に対して優位に立てるような水晶振動子の開発にはつながらないと思います。今後の課題ですね。

気密封止実現に向けたロケット立ち上げ、オールムラタで取り組んだパワーを感じています。

岡崎 進 シニアマネージャー
株式会社富山村田製作所
タイミングデバイス事業部 商品開発部 商品開発2課

1999年入社。設計と製造技術にて圧電商品のモノづくりを学び、
2年前から水晶振動子の開発を担当。
趣味は読書、ゴルフ。スイング固めに奮闘中。

タイミングデバイスを基幹事業に。小型化トレンドの先を行く

水野 当面の目標は、2020年の時点で、タイミングデバイスを基幹事業の一つにしていきたい。その実現のために、それぞれのセクションで、こうしたい、こうしようというアイデアはありますか。

吉田 原石の製造からいうと、デバイスというのは、どこまで小さくなるのか。おそらく1008 (1.0mm×0.8mm) サイズ以下になると思われますが、そのとき、原石の質は、今以上のものが求められますよね。大きな原石からどのように切り出すか。機械加工の向上に加え、今後はエッチングによる加工も発展させることにもなるでしょうね。うまくコントロールして、無欠陥でQ値を安定させる、しかもごみがないこと。今は、1本の原石から切り出していますが、将来的には、原石自体を用途別に作り分ける、溶液を変えるとか、混合するとか。そんなテストもやり始めています。早く結果を出して、進むべき方向を見極めたいと思っています。

水晶の微細加工技術が次の課題、水晶業界へのムラタの挑戦

光野 さらに小型化がすすみ、そういう中でも特性を確保するには水晶ブランクの形状が大切になります。いかに高精度にその適正な形状を確保するか、ということですね。それには、水晶の微細加工技術が重要になってくるでしょう。これは水晶を化学処理で加工することになるので、例えば水晶に欠陥部があると、そこに小さな孔が空いてしまったりします。そうなってしまうと安定な特性は出せません。したがって、水晶原石を高品位にコントロールできるムラタは、今後の微細加工技術をにらんだ上でも一定の優位性があると思いますね。

顧客の要望に応じ、最適のソリューションを提供

水野 水晶の使いこなしには、違う技術も視野に入れて、タイミングデバイスの提唱をしていく必要があります。セラミックスと水晶あるいは他のソリューション、可能性の高い技術をそろえ、あらゆる顧客の要望に応じて提案し、タイミングデバイスのあらゆる分野で勝てるようにしていきたいものです。

開田 タイミングデバイスで主流となる技術 (素材) は、低精度領域にはセラミックス、高精度領域には水晶、この構図は当面揺るぎないのではないでしょうか。私たちは、セラミックスと水晶以外に他のソリューションも検討しており、今後もそういう調査・研究は継続させていくのですが、水晶は温度特性に優れQ値が高く、かつそれらのばらつきがきわめて少ないので、高精度領域で水晶に太刀打ちできる他のソリューションはなかなか現れないと予想しています。そういう中で、優れた水晶原石をもつわれわれが、そのいい面を出せたら、もっと市場で受け入れてもらえる可能性が高いと思います。次世代ネットワークの通信品質向上などにも貢献できるでしょうし、ヘルスケア関係やエネルギー関係など、今後新たに開拓されるであろう領域に使われる製品も実現可能でしょう。

パーティクルゼロを訴求、集積化も一つの答え

堀井 水晶デバイスは昔から、パーティクル (異物)による不具合がもっとも懸念されていて慢性的なものらしいですが、実はムラタの樹脂封止品HCR®は、パーティクルがゼロなんです。生産ラインの構築段階から、パーティクルを除去し監視するラインを作っていますし、商品構造の特徴を活かしてパーティクルを検出する独自技術を適用しており、これらが功を奏し、パーティクルのクレームがありません。ここ何年間で10億個以上生産しているので、実績値で1ppb以下の発生率、つまりほとんどゼロだと言えるんです。これはたいへん訴求力のある点だと感じています。

開田 実のところ、セラミック発振子で培ってきた設計技術を水晶にはまだ十分に活かしきれていないと思っています。セラミックスでは、その加工のしやすさを活かして、さまざまな振動モードを実現してきました。水晶に微細加工技術が適用されるようになると、加工形状の自由度が高まるので、セラミック発振子で蓄積した振動モードの知見を活かしやすくなるだろうと思っています。そうできることを心待ちしており、いろいろなアイデアを蓄積しているんですよ。振動モードの工夫でいっそう小型にできれば、水晶振動子をICに入れ込むことも可能になるかもしれませんし、また一方で、パッケージにムラタ独自の基板を使えば、その中に違う機能素子を入れ込むことができるかもしれません。つまり今後の集積化の流れに乗ること、推進すること、そういうこともいろんな方策を考えながら視野に入れています。

新チームの加入によるチーム再編、違う組織の融合が新たな技術を生む

水野 製品を世に送り出すまでには、研究開発のみならず、材料開発、プロセス、回路設計、生産、分析・評価等あらゆる要素技術が必要になります。ムラタはこれらの技術とノウハウを自社内に蓄積することで、さらに新しく多彩な電子部品の世界を切り拓いてきました。タイミングデバイスでは、東京電波という水晶デバイスのチームがグループに加わり、チーム再編で新しいチームワークができあがったわけですね。組織の文化、風土が異なる両社が、業務上いっしょになる。この点において、何か問題はなかったのでしょうか。

光野 東京電波では、水晶振動子の設計しかやっていなくて。この分野の仕事は極めて専門的、高精度で、ものすごく深掘りをするので、ともすると煮詰まってしまうこともありました。それがムラタの場合はオールマイティで、何でもできる。最初、何でもやってしまうのがすごいと思いました。今では、いろんなことやらせてもらっているので、けっこう幸せ。その反面、プレッシャーはありますが。

チーム再編による新しいチームワーク、タイミングを図って新たなモノづくりへ。

吉田 和美 工場長
東京電波株式会社
群馬工場

1977年東京電波入社。水晶、酸化亜鉛等の単結晶育成に従事。
趣味はクレー射撃、ライフル射撃、大物狩猟。

進化はまだまだ続く、チームワークによるモノづくり

吉田 原石の分野にムラタの技術が入ることにより、今後の展開がどうなるか楽しみです。今までは経験値を基にしていましたが、科学的に実験し究明して、やはりデータでもそうなんだ、と改めて納得する部分があります。ムラタの技術を導入することで、もっともっと進化できると思います。

開田 原石やブランクの技術には暗黙知があって、その原理原則、メカニズムも熟知した上で科学的に分析しなくてはいけない、それがムラタのノウハウなんですね。また、業務から一歩離れて、より視野を広げて、5年後、10年後のテーマを考えてみる。そういう活動もムラタでは活発ですね。やり出すと一面では苦しいけれども、だんだん楽しくなってきます。こういうことを継続して、社員の意識を老化させない、固定化させない。このような全社共通の活動がチームワークの原点じゃないでしょうか。

水野 よくいわれますが、「今日の経営」と「未来の経営」、その二つを考えないといけない。ありがちなのは、今日のことで手いっぱいで、未来のことを忘れてしまうこと。10年後、20年後、自分はいないかもしれないわけだから、そういうことをやってもらえる若い人を育てないといけない。それも、われわれのチームワークですね。確かにムラタには、いろんなシステムがあり、管理などはきっちりとできています。ただ、水晶デバイスのことでは、東京電波のほうが進んでいる面もあり、それらを一つひとつ「見える化」していきたい。こうして、ムラタのチームが一つ増えたことで、新しいチームワークが増えたわけです。タイミングデバイスのように、われわれがコアになって、みんなが協調していきましょう。

用語解説

*1 原石:

水晶デバイスの製造に使う育成した水晶。全長15m、内径0.6mの密封容器の中に入れて圧力をかけ、1日0.5mm程度で育成していく。

*2 シード:

天然水晶または、高純度人工水晶から作られる原石の種結晶となる水晶。

*3 ブランク

水晶 (原石) の結晶軸に対して決められた形状や寸法、角度に切断した圧電材料。

*4 周波数精度:

タイミングデバイスの重要な特性。水晶の周波数精度は数ppmで、非常に精度が高い。

*5 Q値:

振動の持続特性を表す値。この値が大きいほど振動が減衰しにくいことを意味する。

*6 振動子と発振器:

振動子は水晶に電極を付けてパッケージに封入した部品。発振器は振動子と発振回路をパッケージして部品化したもの。違いは発振回路の有無。

*7 ppm/ppb:

ppmは、「parts per million」の頭文字で、100万分の1を示す数値。百万分率ともいう。ppbは、「parts per billion」で、10億分の1、十億分率。